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銀の絆

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「これが印よ」
と麻子が言った。
 うん。と頷いた柚子の目には涙が溜まっている。
 それは溢れんばかりで、その原因は赤く腫れたその両頬にあるのは明らかだ。
「いいこと」
 麻子が大仰な口調で言う。
「これは印なのよ」
 先程と同じ言葉を繰り返す。
「大事な大事な印よ。あたしとあんたのへその緒のような物なのよ。
 次にこれを身に着けていなければ、その両頬が剥がれる位ぶってやるわ」
 わかってるの!麻子の声が金切り声に変わり、パシンと鋭い音が響く。
 右頬を打たれた柚子の目から涙が幾粒か零れた。
「ごめんなさい」
 文句も言わず、打たれた頬を庇おうともせず、柚子は謝罪する。
「ごめんなさい、麻ちゃん。
 ごめんなさい。ごめんなさい」
 パシンともう一度音が響き、今度は左頬に痛みが走る。
 だが手を出している麻子の方が余程痛そうに顔面を歪め、遂には両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 柚子はひたすらに謝ることしかできない。
 そのうちに麻子は柚子を掻き抱き、子供のように縋りついてしゃくりあげ始めた。
「ごめんね、柚子。痛いでしょう。でも柚子が悪いのよ」
 必死に縋りつきながらも、己の手でぶったその頬を優しく撫でる。
「柚子が悪い子だからぶったの。
 だけど痛いでしょう。ああ、あたしまで痛いわ」
「ごめんなさい。麻ちゃん、ごめんなさい」
「良いのよ、柚子。これからは良い子にできるわよね?もうこんな酷いこと、あたしにさせたりしないでしょう?」
 うん。と、柚子が頷く。
 麻子は再び、だが今度は落ち着いて優しく、柚子をその胸の内に抱いた。
「良い子ね、柚子」
作品名:銀の絆 作家名:ハル