銀の絆
1
「これが印よ」
と麻子が言った。
うん。と頷いた柚子の目には涙が溜まっている。
それは溢れんばかりで、その原因は赤く腫れたその両頬にあるのは明らかだ。
「いいこと」
麻子が大仰な口調で言う。
「これは印なのよ」
先程と同じ言葉を繰り返す。
「大事な大事な印よ。あたしとあんたのへその緒のような物なのよ。
次にこれを身に着けていなければ、その両頬が剥がれる位ぶってやるわ」
わかってるの!麻子の声が金切り声に変わり、パシンと鋭い音が響く。
右頬を打たれた柚子の目から涙が幾粒か零れた。
「ごめんなさい」
文句も言わず、打たれた頬を庇おうともせず、柚子は謝罪する。
「ごめんなさい、麻ちゃん。
ごめんなさい。ごめんなさい」
パシンともう一度音が響き、今度は左頬に痛みが走る。
だが手を出している麻子の方が余程痛そうに顔面を歪め、遂には両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
柚子はひたすらに謝ることしかできない。
そのうちに麻子は柚子を掻き抱き、子供のように縋りついてしゃくりあげ始めた。
「ごめんね、柚子。痛いでしょう。でも柚子が悪いのよ」
必死に縋りつきながらも、己の手でぶったその頬を優しく撫でる。
「柚子が悪い子だからぶったの。
だけど痛いでしょう。ああ、あたしまで痛いわ」
「ごめんなさい。麻ちゃん、ごめんなさい」
「良いのよ、柚子。これからは良い子にできるわよね?もうこんな酷いこと、あたしにさせたりしないでしょう?」
うん。と、柚子が頷く。
麻子は再び、だが今度は落ち着いて優しく、柚子をその胸の内に抱いた。
「良い子ね、柚子」