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海竜王 霆雷8

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家に帰りついたら、ふたりとも、さすがに疲れていて、ばったりと床に寝転んで、そのまま眠ってしまったので、次の日の午後近くになって動き出した。とりあえず、食事をしなければ、と、美愛は、着替えて台所に向かう。しかし、やっぱり電化製品の使い方がわからない。まさか、西海の宮から食事を運んで貰うわけにもいかないので、近くにいると思われる眷族を、探した。声ではなくて、意識を周囲に巡らせたら、それらしいのが、ひょっこりと現れた。
「なぜ、真珠がいるのです? 」
 現れたのは、真珠の精だ。それも、相当に古くて力のあるものだったから、美愛も驚いた。それほどの真珠となると、竜王の宮か水晶宮で仕えているはずだからだ。
「先代の長より、こちらの人外の方に譲り受けられて、現在は、こちらで人外の、その主人に仕えております。先日、現西海白竜王様より、あなた様の世話を依頼されましたので、面前に現れておりますれば。」
 唐子姿の真珠の精は、ぺこりとお辞儀して、そう言った。確かに、長は、それを保有しているから下賜することもある。そのひとつであるらしい。
「では、今のご主人に、ご挨拶をしなければなりませんね? 」
「いいえ、それには、及びません。我の主人からは、許可を得ております。」
 こちらの人外のものに挨拶しておく、と、三叔父は言っていたから、その時に、依頼しておいてくれたのだろう。それならば、遠慮なく手伝わせようと、美愛も、食事の作り方を教えろ、と、命じた。冷蔵庫なるものには、いろいろなものが入ってはいるが、そのまま食べられないことは知っていた。
「ええ、これを器に移し、それから、その電子レンジに入れてください。タイマーというものが、ございますから、その時間を設定して・・・はい・・・そうです、美愛公主様。」
 唐子は丁寧に、作り方を教えてくれた。作れ、と、命じなかったのは、今後のことも考えてのことだ。何年も、ここに滞在するなら、ここの生活を身に着けておくほうが、何かと便利だろうと思ったのだ。彰哉が、寝転けている間に、どうにか食事の支度はできた。いろんなものを、電子レンジで調理したのだが、組み合わせというものがあると、唐子は、それについても説明してくれた。


 汗臭くなっている寝間着を着替えさせてやりたかったのだが、さすがに、脱がせるのは恥ずかしい。揺すって起して、とりあえず、水浴びしてもらうことにした。手を肩にかけようとしたら、どこかで、音がして、それを耳にしたらしい彰哉は、目を閉じたままで、ひょいと空中で、どこからか跳ばしたものを手にして耳にあてた。
「・・・ウ・・・はい・・・はい・・・ああ、すいません。・・・はい・・・えーっと・・・はい・・じゃあ、メールに添付してください。・・・はい・・・」
 眠そうな声で、どこかと通信して、ぴっと切った。これは、電話というものだが、美愛には、よくわからない代物だ。
「・・・あーーーーー・・・よく寝たぁぁー・・・」
 うーんと背伸びし、勢い良く腹筋で起き上がった彰哉は、乱暴に足を動かして、「ってぇぇぇぇぇーーー」 と、ごろりと、また転がった。忘れていたらしい。愚か者、と、内心でツッコんで、美愛が、その背中に腕を差し入れる。
「怪我人だということを忘れるなんて、何事ですか? 」
「・・忘れるだろう。俺、怪我なんて縁がないんだからさ。」
 ふあーと盛大に欠伸して、彰哉は立ち上がろうとするのだが、その身体をひょい、美愛が横抱きにした。げっ、という顔をして、自分の状況に、彰哉は唖然とした。自分と背丈が遜色ない美愛に、横抱きにされているというのが信じられない状況だ。
「待て、美愛。」
「とりあえず、水浴びして着替えてくださいな。いくらなんでも、彰哉の着替えまでしてさしあげる気はありませんので。」
「いや、だから、俺、自分でっっ。」
「しばらくは安静です。」
「浮いて動くから、これはやめろっっ。」
「よいではありませんか。誰がいるという訳でもないのです。」
 力を使えば、彰哉ぐらいの重量は軽いものだ。簡単に、そのまま、洗面所へ連行して、そこで下ろした。着替えは、自分で揃えろ、と、だけ言い置いて、一端、そこから離れる。


 食卓に並べられた食事に、驚いたものの、空腹が勝っていて、彰哉も美愛も無言で食べた。ブランチのメニューとしては、申し分ない配分だったから、きれいに平らげて、ふう、と、ふたりして満腹感を満喫する。
「これ、どうやって作ったんだ? 」
「眷属を呼び寄せて、作り方を教わりました。」
 本気でやったのか、と、内心で、彰哉は呆れたが、助かったのも事実だ。浮いていられるが、そうやって家事をするのは、結構面倒だと思っていたからだ。
「なあ、美愛。後片付けも頼めるか? 俺、ちょっと用事があるんだ。」
 食洗機にいれてくれればいいから、と、書斎へ瞬間移動した。先程の電話の用件を確認するのが先だ。先程の相手は、弁護士で、課題が、数日提出されていないが、体調を崩したのか、という確認の電話だった。崩したということで、応じたら、サインして欲しい書類があるので、郵送するから、内容だけは、メールで確認しておいてくれ、と、言われた。たぶん、何ヶ月かに一度の遺産を弁護士から受け取るための書類だろう。基本的に、未成年の彰哉には、相続した財産を自由に使う権利はない。今のところは、彰哉の後見人として指名されている弁護士が、それを管理して、財務プランナーに運用させている。それで、その運用して増加した財産についての、さらなる運用依頼というものに同意のサインをしなければならない。それとは別に生活費として、充分すぎるほどの金額は、定期的に振り込まれているので、運用して増やしてもらう必要はないのだが、そういう取り決めになっている。成人すると、それまで管理されていた遺産は、全て彰哉のものになる。それまで、後二年だ。十八で成人と認められる。それまでは、ここで大人しく勉強しているのが、彰哉の仕事である。
 書斎のパソコンを立ち上げて、メールで届いている書類をチェックした。予想していたものだから、郵送で書類が届いたら、サインして送り返せばいい。

・・・・二年か・・・・

 二年したら、成人する。その段階で、次の誰かに渡してやることは可能なのだろうか、そのことを弁護士に尋ねてみたかった。その旨を書き込んで、メールを送ったら、すぐに、電話が鳴った。どうやら、弁護士は、机に座っていたらしい。
「この質問は、どういうことだろう? 」
 率直に、尋ねられた。
「俺は、欲しくないから、誰かに渡したいって思うんだ。それで、そういうのは、出来ることなのか質問しただけだよ。」
 もちろん、彰哉も、そのままストレートに返した。しばらく、相手は沈黙したが、それから、「可能ではある。だが、その必要はない。」 と、答えた。
「どういうこと? 」
「きみの義理の父親は、不測の事態についても、私と契約している。きみが、失踪もしくは不慮の事故、病死した場合は、他の相続人に、その分は振り分けるように、と、言われている。・・・まさか、本当に言い出すとは思わなかったけどね。」
作品名:海竜王 霆雷8 作家名:篠義