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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 可愛らしい声を出したのはもちろんアレンではない。部屋を急に飛び出して来たアレンにぶつかって、床に尻餅をついているシスター・セレンだ。
「もお、いきなり部屋から飛び出して来ないでくださいよ!」
「あんたの注意力が足らねえんだよ」
「もお!」
 顔を膨らませて怒ったセレンは、アレンを無視するように廊下を走って行ってしまった。その後をアレンが追って、すぐにセレンの横に付く。
「あんたも馬鹿デカイ物音聞いたんだろ?」
「だから外に向かってるんです!」
「なんの音だと思う?」
「わからないから見に行くんですよ!」
「そりゃそーだ」
 二人はボロボロの椅子の置かれた静かの聖堂を抜け、教会の前の通りに飛び出した。
 すぐにセレンが空に立ち上る煙を見つけた。
「あそこはたしか工事現場」
「銃声だ」
 アレンが呟いてすぐ、通りの曲がり角から人影が現れ、地面を激しく蹴り上げながらこちらに向かって走って来た。
 何者かに追われているような人影は、アレンたちの前を通り過ぎようとしたのだが、ふとアレンの視線が人影と合った。
「あんたは」
「おう、いいとこで会った、俺様を匿え!」
 セレンは目を丸くしたまま謎の男に押され、アレンとともに聖堂の中へ後ろ歩きで押し込まれてしまった。
 謎の男は聖堂の扉を閉め、アレンとセレンに向かって振り返った。その男はトッシュだった。
「とにかく俺様を匿え、礼はする」
 次の瞬間、聖堂の扉が激しく開けられ、ライフル銃を持った数人の男たちが聖堂の中に流れ込んで来た。
「怪しい男を見かけなかったか!」
 男たちは入って来るなり、アレンのセレンに銃を向けた。
 もちろん『怪しい男』とはトッシュのことだが、トッシュの姿はすでにどこにもない。そこには古びた聖堂があるだけだ。
 アレンは大あくびをしながら、受け答えをする。
「爆発音がしたみたいだから外に出ようと思ったんだけどさ、なんかあったの?」
「貴様らの知ることではない!」
「はいはい、そーですか。怪しい奴なんか見てねえよ。こっちにいるにはシスターだし、嘘は付かねえから、さっさと別んとこ探した方がいいぜ、追ってる奴が逃げちゃうよ」
 アレンの言葉に続いてセレンがひと押しする。
「神聖な神の家に銃を持ち込まないでください、お願いします」
 丁重に頭を下げるセレンであったが、男たちは構わず聖堂内を捜索しようとした。
 だが、外の通りから男の声が聞こえて、足が止まる。
「怪しい男がいたらしいぞ!」
 聖堂から男たちが無愛想な顔をして無言で出て行く。アレンが背中に唾を吐きかけたことにも気づかず。
 一気に肩から力の抜けたセレンは早々に聖堂の扉を閉めた。すると、今までどこに隠れていたのか、トッシュがひょっこりと顔を出した。
「ブレスレットを外して男にプレゼントしたのが効いたな。俺様の悪運も大したもんだ」
「わたしは不幸のどん底です」
 セレンは深くため息をついた。――今日は特についてない。
 裏路地で男たちに襲われ、謎の少女を家に泊めることになり、今度は謎の男をその場の空気に流されて匿ってしまった。今朝割った卵に黄身が二つ入っていたが、もしかしたらその時に今日の運を使い果たしてしまったのかもしれない。
 木製の椅子に腰掛け、煙草に火を点けたトッシュの顔が、薄闇の中に浮かび上がる。
「さてと、匿ってもらった礼はどうするか。一五〇〇イェンでどうだ?」
「一五〇〇イェンですか!?」
 思わず声をあげてしまったセレンを見て、トッシュがう〜んと唸る。
「それでは満足できないか。三〇〇〇イェンでどうだ?」
「違います、お金とかじゃなくて……」
 さっさと出て行って欲しかった。
 これ以上ごたごたに巻き込まれたくない。それがセレンの本音だった。
「金じゃないと来たか。そんなことを言う人間がこの街にいたなんてな、さすがは教会だ。そんな慈悲深いシスターにお願いがあるんだが、一晩泊めて欲しい」
 トッシュの言葉に、さすがにセレンは頭を抱えてあからさまに嫌な表情をした。泊めて欲しいイコール匿って欲しいと同じ言葉だ。だが、セレンはうなずいてしまった。
「わかりました、一晩お泊めします」
「ありがとよシスター」
 景気のいい声でトッシュは言うが、セレンにしてみれば悪い。
 煙草の煙を天井に向かって吐いたトッシュの前にアレンが立った。
「あんたさ、まだ俺のこと雇う気ある?」
「前金は払える状態じゃないぞ。それに三食昼寝付きも難しそうだ」
「一万イェンで手を打ってやるよ」
「五〇〇〇イェンじゃなかったのか?」
「条件が変わったし。あー、それとさ、こっちのシスター・セレンへのお礼はこのボロ教会の建て直しでいいよ」
 勝手に自分へのお礼を決められたセレンは声を荒げた。
「そんなこと頼んでいません」
「あんたさ、お礼はちゃんと貰わないと駄目だぜ」
 アレンの言葉にセレンの心が揺らぎ、彼女がトッシュに頭を下げようとした瞬間、トッシュが先に口を開いた、
「匿ってもらっただけで教会建て直しとは高くついたな」
 言われてみればそうだ。セレンはなんてとんでもないお願いをしようとしていたのかと、自分を恥ずかしく思って顔を赤らめた。だが、トッシュの次の言葉に目を丸くした。
「だが、たまにはカミサマにコネを作って置くのも悪くない。よし、二〇〇万もあれば立派な教会になるだろ」
「えっ、えっ、えええ、やめてください、そんな駄目です。とにかく駄目です、だってそんな教会なんて建てたら、ほら、街の人たちに壁とかステンド硝子とか持っていかれそうですし!」
 とにかくセレンは慌てふためいた。普段から慌てることは多いが、こんなに慌てたのはきっと生まれてはじめてだろう。一秒間に瞬きを三回もしていることからも、その慌てぶりが伺える。
 今にも目を白黒させながら失神しそうなセレンの横で、呑気な顔をしてアレンが笑っていた。
「ま、いーんじゃないの。トッシュが直してくれるって言うんだからさ」
 ――トッシュ。その名を聞いて、ついにセレンはお尻から冷たい石の床に崩れ落ちた。
「ト、トッシュ!? この方が?暗黒街の一匹狼?……」
 おでこに手を当てたセレンは、ゆっくりと後ろに倒れて気を失った。
「あーあ、あんたの名前聞いたら気ぃ失っちゃったじゃん」
「俺様のせいじゃないだろ。とりあえずこのシスターをベッドまで運んでやろう」
「あんたがな」
「口の悪いガキだな」
「そいつはどーも」
 悪戯な笑みを浮かべるアレンに舌打ちしたトッシュは、手に持っていた煙草を投げ捨て靴の裏で火を消すと、地面に横たわっていたセレンを胸の前で抱きかかえて歩き出した。
「シスターの部屋はどこだ?」
「んなもん自分で探せよ」
「糞ガキがっ!」
 金で雇われようとも、この二人の間には絶対に主従関係は成立しないようだ。