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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 セレンの視線の先には服を全て脱いでいる、全裸の状態のアレンが立っていた。
 全裸を見られているアレンは気にすることもなく、セレンに声をかけた。
「ちょっとさ、背中見てくんない?」
「え、あっ……」
 自分に背中を向けるアレンから、セレンはまだ目を放せずにいた。
 そこにあったモノがただの男性の裸だったら、セレンは目を両手で覆って視線を逸らせたに違いない。しかし、そこにあったモノは違ったのだ。
 柔らかな曲線を描く脚の付け根にある小ぶりなお尻は、発達途中の少女のお尻のようであったが、大きく形良く膨らんだ胸は見ているだけでセレンもドキッとしてしまう。そう、アレンは女だったのだ。しかも、セレンを驚かせたのはそれだけではなかった。アレンの右半身は鼠色に輝く金属によって覆われていたのだ。
 その場で動けなくなっているセレンの目の前までアレンが移動した。
「俺の身体ジロジロ見て、エッチだぞあんた。もしかして、そっちの趣味があんのか?」
「え、違います、別に女の人が好きとかじゃなくて、その身体……」
「サイボーグだよ。こん中に入ってる臓器も半分は人工臓器」
 そう言ってアレンが右胸を叩くと、金属の鳴り響く音がした。アレンの右の乳房は左と形の上では差異なく再現されているが、やはり鼠色の金属でできていた。
 アレンはセレンの手からタオルと水の張ったバケツを取り上げ、タオルを水で浸すと、右肩についた血の痕を拭きはじめた。
 血の拭き取られた傷痕は大きな瘡蓋になっていた。通常の人間ではありえない回復の速さなのは言うかでもない。
 水の張ったバケツの中に紅く染まったタオルが投げ入れられ、バケツの中から水が床の上に少しはね飛び散る。そして、アレンはセレンに向かって背中を向けた。
「背中ちょっと見てくんない?」
 言われたとおりセレンがアレンの背中を――というより、アレンから目を放せずにいたセレンが背中を見ると、そこには黒い煤がついたような跡が三つ並んでいた。その三つの後を線で繋げた先に、右肩の傷痕がある。この三つの跡はアレンが料理店で銃弾を受けたときのものであった。
「黒い煤汚れみたいな跡が三つありますけど?」
「そこんとこさ、へこんだりしてない? ちょっと手で擦ってみて」
 言われたとおりにセレンはアレンの背中に触れた。温かかった。金属の背中は予想とは違い温かく、人の温もりが感じられた。しかし、人肌とは違い、硬い金属であることには違いなかった。
 セレンが弾の痕を指先で擦ると、黒い煤が指先に残るだけで、アレンの背中にはへこんでいる痕もなにもなかった。
「別にへこんでもませんけど?」
「やっぱな。あんな弾くらいでへこむはずないんだけど、いちよー確かめないとな」
「弾って、もしかして撃たれんですか!? もしかしてこの傷も?」
 にしては治りが早いことにセレンも気が付いた。
「貫通したから治りが早くて助かったぜ。炸裂弾とか喰らってたら泣いちゃうとこだったよなぁ」
 振り返ったアレンはセレンに向かって笑った。その笑みをみたとき、セレンはとんでもない人と係わり合いになってしまったことに気づいた。目の前にいる少年のような少女は、ただの人間ではない。
 アレンは自分のお尻や脚などを見回すと、満足そうに頷いた。
「他は撃たれたないみたいだな」
 服を着替えはじめるアレンを見て、セレンはこれからこの少女とどうやって接すればいいのかを一生懸命、頭をフル回転させて考えていた。
 まず、少年だと思っていたアレンが少女だったことで、それなりに態度が変わってくるだろうし、それよりもあの鼠色の身体を見てしまっては……。
 アレンは軽くサイボーグと言ったが、あんな大掛かりな物は今だかつて、セレンは見たことも聞いたこともなかった。きっと、半身をサイボーグ化する技術は現代の技術ではなく、今に残る?失われし科学技術?によるものだろう。しかし、それでも誰がその技術を使ってアレンにサイボーク手術を施したのかわからない。そんな技術を使いこなせる者が、この世に何人いるのか?
「あの、アレンさんって……」
 と言って、セレンは口を噤んだ。
「俺がなに?」
「別にいいんです。それよりも、夕飯食べますよね? 粗末なものしかありませんけど」
「夕飯はいらねえ。さっき腹いっぱい食って来たとこだから……ま、代金は高くついたけど」
 苦笑いを浮かべるアレン。それを見てセレンはなにを思ったか、こう口にした。
「食い逃げですか?」
「はっ? 食って逃げたには逃げたけどさ、別に食い逃げじゃねえし、相手が一方的に撃って来たんだしさ」
「お金は持ってるんですか?」
「一文無し」
「やっぱり食い逃げしたんじゃないですか!」
「なんか勘違いしてねえか? 俺は普通にトッシュって野郎と食事してたら、変な女が配下の野郎どもをみたいのを引き連れて来て、気づいたらマシンガンでズドドドドドって撃たれたわけよ」
「トッシュって、?暗黒街の一匹狼?と呼ばれる人のことですか!?」
「そーいやー、そんな呼ばれ方してたような、してなかったような?」
「あなたいったい何者なんですか!?」
 これが一番聞きたかったことだった。
「何者って聞かれても困るよなぁ。俺は俺だし、決まった職業に就いてるわけでもねえしな」
 誤魔化されているのか、本心からこんな回答をしているのか。アレンの表情からは窺い知ることはできなかった。
 セレンはアレンから聞くことをやめた。世の中には知らない方がいいことが多い。きっと、目の前にいる少年に似た少女とは、深く係わり合いにならない方がいい。それがセレンの答えだった。
「わたしはこの部屋を出て右の突き当たりの部屋にいますから、用があったら訪ねて来てください。じゃあ」
 セレンは足早に部屋を出ようとしたが、それを真剣な顔をしたアレンが止めた。
「あのさ」
「なんですか?」
「トイレどこ?」
「……はい? え、えっと、部屋を出て左の突き当たりです」
「あんがと、じゃな」
 人懐っこい笑みを浮かべるアレンに手を振られ、セレンはなんとも言えない表情で部屋を後にした。

 その坑道が発見されたのは偶然だった
 武器の運搬を秘密裏に行うために坑道を掘り進んでいたところ、その新たに掘り進めていた坑道と古い坑道が偶然にぶつかったのだ。
 古い坑道を見つけたトッシュは武器運搬計画を早々に取り止め、失われた科学技術の発掘に乗り出した。
 ?失われし科学技術?の発掘は少人数で行われ、ダイナマイトなどは使用せずに、小型ドリルなどを使用し、地上に情報が漏れないように最大限の注意を払って行われていた。この場所は街の真下だった。そう、ここはクーロンと呼ばれる街の真下だったのだ。
 最大限の注意を払いながらも、秘密はどこからか漏れるもので、もっともトッシュが気を払っていたはずの相手に嗅ぎ付けられしまった。それがクーロンの南に広がる砂漠の中心に存在するシュラ帝國の若き王――皇帝ルオだった。
 街の外れのただの工事現場に偽装されていた空き地。そこに昨日から大量の人や、トラックに乗せた機材が運び込まれた。中でも一番目を引いたのは坑道掘削装置だった。