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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 思わず顔を伏せたセレンが元の位置に顔を戻したとき、そこには?少女?は空気のように立っていた。
「…… 迎えに来る。私……行かなければ……ならない」
 虚ろな眼をした?少女?は上を向いた。
 その眼は何処を見る?
 それは果たして天井か、その先の空か、宇宙か、それよりも先のセカイか?
 セレンは虚ろな?少女?の腕にそっと触れた。
「あの、どこに行かなければならないんですか?」
「……わからない」
「はあ、そうですかぁ」
 間延びした返事を返したセレンは途方に暮れた。虚ろな?少女?を見て取って、まともなコミュニケーションができないと判断したのだ。
 天を見上げふらふら歩き廻る?少女?に付き添いながら、セレンはとにかく言葉による意志伝達をしようと頑張った。
「ええと、お名前は?」
「……行かなければ……ならない」
「どこに?」
「……名前?」
「そう、あなたのお名前は?」
「……名前?」
「あなたをつくった人は、あなたをなんと呼んでいたんですか?」
「つくった……そう、私は創られた。二人の魔導師に創られた」
 ?少女?の思考が晴れて来たのか、口調が少しずつだが明瞭になり、瞳に光が微かに輝きはじめた。
 糸口を掴んだセレンは、この糸が切れないように話を続けようとした。
「ええと、それで、あなたのお名前は?」
「私を創った魔導師の名前はリリスとレヴェナ。二人の姉妹が私を創った」
「その二人は、あなたになんという名前を付けてくれたんですか?」
「私の名前……私の名前……レヴェナは私をこう呼んだ――エヴァ」
 ?少女?の瞳が爛々と輝き、翼が煌きを放った。
 だが、セレンの目は?少女?とは別の方向に向けられていた。
 ドアにレーザー光線が走り、それは長方形の線を描くと、切り取られたドアが外側から激しく蹴破られた。

 太陽が西の地平線に沈み、空で踊っていた朱たちがどこかに消え、代わりに東の地平線から月が昇りはじめると同時に蒼が世界を包む。――夜が来る。
 砂塵の吹き荒れる大地に立ったアレンは、遥か前方も見える鉄の塊を視察していた。
 問題は〈キュプロクス〉のどこにセレンがいるのかなのだが、それに検討をつけるのは用意ではない。なぜならば、〈キュプロクス〉が超巨大飛空挺だからだ。
 〈キュプロクス〉の全長は三五〇メートル以上にも及び、全高と全幅もともに一〇〇メートルを越す。この中からセレンを探すのは容易ではない。それに、皇帝ルオ専用機とのこともあって、中に乗っている兵士の数も尋常ではない。
 砂を踏みしだき、アレンは一歩一歩慎重に〈キュプロクス〉に近づいた。手にはすでに魔導銃〈グングニール〉が構えられている。
 飛空挺の一〇〇メートル以内に近づくと、警備用の丸いライトが幾つも地面の上を飛び交い照らしていた。アレンはそれに照らされぬように、吹き抜ける風となって地面を駆けた。だが、その途中で敵に見つかってしまった。
 アレンを見つけたのは人の目ではない。機械の眼によって熱探知をされてしまったのだ。
 飛空挺側面に取り付けられたレーザー銃が光線を発射する。
 空高く跳躍し、翔けるアレンの後を光線が追う。
 飛び交う光線の中を縫うように翔け抜け、光の線は天を突き、地平線の彼方に消え、地面を焦がした。だが、どれ一つとしてアレンを焼け焦がすことはできなかった。
 そして、アレンは金属の壁に背を当てた。
 どうやら飛空挺と直角の位置にいれば、レーザー銃の射程距離から外れるらしく、光のイリュージョンは止んだ。
 レーザーの攻撃は止んだものの、敵にアレンのことがバレた明白で、これから先、警備が強固なものとなるのは間違いない。もはや、こっそり進入というわけにはいくまい。となると、強引にいくしかない。
 今アレンがいる場所から斜め頭上を見上げると、艦尾から迫り出している壁が見えた。飛空挺を横から見ると、そこはバルコニーのような場所だということがすぐにわかる。
 バルコニーまでの高さは三〇メートル以上ある。
 歯車が廻る音がどこからか聞こえ、〈グングニール〉を懐にしまったアレンは右膝を屈伸させた。
 そして、飛蝗か蛙のように高く飛翔した。
 天に伸ばされたアレンの右手はバルコニーの柵を掴み、飛んだときの反動と右手の力で、ひょいと柵を飛び越えてバルコニーの中に入った。
 広々とした辺りを見廻したアレンが苦笑いを浮かべた。
「あはっ、お邪魔なようで……」
 次の瞬間、アレンに銃口が一斉に向けられた。
 兵士の数はざっと一〇名。アレンを待ち伏せしていたわけではない。たまたまここに居合わせたのだ。
 ライフル銃を構える七名の兵士と、ハンドガンを構える他の兵士たちとは井手達の異なる三名。アレンの目を惹いたのは、その三名に取り囲まれたひとりの少年だった。
「朕の晩餐に招待した覚えはないが?」
 大人びた――否、悪魔の笑みを浮かべる少年は皇帝ルオだった。
 手にフォークとナイフを握っているルオは、夜風を浴びながら夕食を摂っていたのだ。今日のルオは食事を邪魔されたことを怒るでもなく、慌てるでもなく、?少年?に気さくに声をかけた。すべては気の向くままのである。
「ところで君は誰かな? まさか単身で朕の命を狙いに来たというのはあるまい?」
「俺はただの通りすがりー」
「あはは、おもしろいことを言うね」
「そりゃどーも」
 いつも通りのアレンだった。
 相手が皇帝ルオだということは、ひと目見てすぐにわかった。ルオを取り囲んでいる三名の兵士の質や発する気が、他の屑とは違うことも一目瞭然であったし、なによりもルオ本人のなんとも言いがたい魔性の気が、至上最悪ならぬ至上災厄の暴君を示していた。
 銃口を向けられていても余裕か、アレンは鼻の頭をポリポリと掻いた。
 こんな状況に置かれたことならいくらでもある。つい先日もどっかの中華飯店で機関銃を乱射されたばかりだ。逃げようと思えば逃げることはできるが、あのときとは決定的に違う点がある。皇帝ルオがいることだ。
 アレンにとって皇帝ルオはただの餓鬼とは思えなかったのだ。
 それはルオにとっても同じであった。
「君さ、普通じゃないよね。うん、余興が観たい」
 ナイフを持ったルオの手がアレンに向けられた刹那、それを合図として銃口が火を噴いた。
 いつ撃たれるともわからない状態ではあったが、これは不意打ちだ。
 高速で襲い掛かる銃弾を避けるべく、アレンは床が抜ける勢いで金属板を叩き蹴り上げ、宙を舞った。だが、これでは標的にしてくれと言っているようなものである。飛び上がったあとは、物理法則に従って落ちるしかない。
 落下するアレンに当たった弾が甲高い音を立てて火花を散らし、他の弾が頬に一筋の紅い線を走らせても、アレンは冷静さを保ち、懐から銃を抜いた。
 〈グングニール〉が吼えた。
 雷鳴が轟き、稲妻がまるで亀裂のように降り注ぎ、天に向かって降る銃弾の雨を呑み込んだ。
 古の老神が持っていた凄まじい破壊力を持つ槍――その名がグングニール。魔導銃〈グングニール〉の名の由来はそこから来ており、銃に刻まれた紋様は失われし古代ルーン文字であった。
 アレンは〈グングニール〉を我が手中に収めたのだ。