学園を制し者 第四話
アパートから車だと少し遠回りになるので、時間にして十分ぐらいだっただろう。
車から降りた俺の目にまず入ったのは木彫りで『新井』と書かれた妙に威厳のある表札だった。
「何をしているのですか?」
後から、車を降りてきた雪の視線を背中に感じながら俺は我が家を見上げる。
日本造の家、とは少し違うのかもしれないが洋風と和風が混じった準和風なたたづまいだ。
近所の無駄におしゃれな家に囲まれてエルメスのティーカップに囲まれた有田焼のように目立っている。
「いや、別に……相変わらずでかい家だなぁ、とおもって」
周りと比べても倍の大きさはある。一般的な家と比べると4倍ぐらいはあるのではないのだろうか。
「大旦那さまは目立つのがお好きのようでしたから」
「そうだったな……」
この情景に合わない準和風な造りも無駄なでかさも、すべで先代、書類上は俺のおじいさんにあたる人物の趣味だそうだ。
俺がこの家に養子に来た時には既に亡くなっていたのであったことはないが、写真では見たことがある。
「では、入りましょう」
「ああ」
雪が先導して目の前に立ちはだかる木でできた門をくぐる。
庭は完全に和作りだった。
庭全体に白石が敷き詰められ、まるでここを通れと言わんばかりに石のタイルが玄関までのルートを示している。
耳をすませばどこからかカッコーンといった鹿おどしの音が聞こえてきそうだが、おあいにく様この家はそこまでの静かさとは無縁であった。
なぜならば……
「しぃぃいんちゃぁぁああん!!」
「ぐぼぁっ!」
突然、闘牛並のタックルが俺を襲った。
俺は胃の中のもの逆流しないようにこらえる。
が、次の瞬間にはやわらかくて暖かいプリンに口と鼻をふさがれ、外に排出させることさえかなわなくなった。
「むぐッ! むむぅう!!」
「しんちゃあん!! 心配しましたぁあ……」
「むぐぅ! ぐ……ぐぅ!!」
「どうして校舎から飛び降りたりしたんですかぁ! 無事だからよかったようなものを……危ないですよぉ!」
「……むぐぅッ……」
「そうやって、いつもいつも姉さんを心配させて! しんちゃんは悪い子ですぅ!」
「……む……ぐっ……」
「怪我で済めばまだいいほうです」
「………………」
「もしかしたら、死んじゃってたかもしれないんですよぉ……」
「………………」
「しんちゃんがいなくなったら……私……私……」
「……感極まっているところ申し訳ありせんが、美羽さま。ご主人様がおっぱいでおぼれ死にそうです」
「はわっ!」
みー姉がようやくおれを開放してくれた。
いきなり投げ出された俺の体は容赦なく地面にたたきつけられる。
「………………」
ぼやけた視界で、墨をこぼしたような真っ暗な空を仰ぎ見て俺は悟った。
(俺はここで死ぬんだだなぁ……)
短い人生だった。
死因が姉の胸というのはいささかかっこがつかないが、ある意味本望だ。
そうこう言っているうちに俺の横に見事な羽をもった天使が舞い降りてくる。
どうやらお迎えが来たようだ。
(どうせ、連れて行かれるなら爆乳エンジェルが……)
『ふっはっはっはっは! こんなところで死ぬとは……情けないぞ! わが同胞!!』
(………………狭山)
舞い降りてきたのは、天使ではなく悪魔だった。
どうやら俺は地獄に連れて行かれるようだ。
『……なんだ? 不服そうだな』
(いや、特に異議はないが……それよりもなぜお前が?)
『RPGとかでよくあるだろう? パーティーが全員死んでゲームオーバーになったときにしゃしゃり出てきて、助言を残して消える村長的なやつじゃよ!』
(……キャラが定まってないな)
『細かいことを気にするんでない!』
(細かいことなのか?)
『少なくとも今気にすることではないだろう』
(確かにそうだが……)
『しかし、この俺がこの場面で出てきたということにはしっかりとした意味がある』
(……? どういう意味だよ?)
『今、ここで貴様を失ってしまうと、後々の俺の作戦に支障が出るということだ』
(心底どうでもいいが……って、おい、こら、ちょっと待て! なぜ、おもむろに俺の顔に近づいてくる?)
『む? そんなことはわかりきっているだろう! 救命処置である人・口・呼・吸をするのだ!』
(…………は?)
『わ、私の初めてを……あなたにあげるわ……』
(きめぇよ!!)
『ふっはっはっはっは! キモいとはごあいさつだな!』
そういいながらも狭山は容赦なく俺の唇に向けて猪突猛進。
(まて! 早まるな!)
俺は必死に体を動かそうとするが、電池の切れたラジコンのようにうんともすんともいわかった。
『諦めるんだな! 俺にも抵抗はあるが、俺の計画の成功ためにはお前を失うわけにはいかんのだ!』
(その代りにもっと大切なものを失うだろうが!! ちょ! やめろ! いや、やめてください!)
こんなことなら地獄に連れていかれたほうがまだましである。
『むうぅぅぅぅ……』
「させてたまるかぁぁあああ!!」
俺は両腕を振り上げ立ち上がった。
まるで、世界タイトルマッチにKOで勝利したチャンピョンボクサーのように。
「はぁ……はぁ……」
(……ふっ……やってやったぜ!)
俺は額から流れるベットリとしたいやな汗を、先ほどの臨死体験で味わった不快感と一緒に拭った。
こんなところで俺のファーストキスを奪われるわけにはいかない。
「ふぅ……しかし、危ないところだった……」
「…………ご主人さまはキスすらもしたことがなかったんですね」
ぐさっ! 雪の冷静なツッコミが俺の心臓を容赦なく貫いた。
「う、うるさいな! いいじゃないか別に……それと、さりげなく俺の心を読むんじゃない!」
「それは失礼しました」
恭しく頭を下げる雪。
「しかし、ご主人さまがキスすらもしたことがないというのは、メイドの私としましては大問題。是非、私と一緒に童貞を捨てましょう」
「なんでキスから、童貞云々の話にになるんだ! そして、スカートをまくしあげるんじゃない!」
「すいません。私の場合はバージンでしたね」
「そういうことがいいたいんじゃねぇ!」
「だ、だめです! しんちゃんにはまだそういうことは早すぎますぅ! どうしてもしたいんだったら……わ、私がしてあげますぅ!」
「みー姉は、唐突にわけのわからんことを言わないでくれ……」
「では、3Pということでよろしいですか?」
「よろしくねぇ!」
(何だこのコンビは……)
俺はしみこむような頭の痛さ感じながら目頭を揉む。
雪のほうは確信犯だろうが、みー姉は天然で言っているのだから恐ろしい。
「だめですよ! お姉ちゃん許しませんからねぇ!」
「………………」
「ほえ? どうしたんですかぁ?」
さて、ここにきて『学校でのみー姉』しか知らない者には、おスぎとピーこの片割れがいッコーにすり代わっているぐらいの違和感にさいなまれていることだろう。
ここでうるんだ瞳で俺を見上げ、若干舌足らずにしゃべるこのむくな少女は、まごうことなく我が義姉の『新井 美羽』である。
別に、あまり人気が出なかったからキャラ変更をしてみたとかそういう裏事情ではない。
「それについては私が、ご説明いたしましょう」
「……おい、雪? 突然どうしたんだ……?」
車から降りた俺の目にまず入ったのは木彫りで『新井』と書かれた妙に威厳のある表札だった。
「何をしているのですか?」
後から、車を降りてきた雪の視線を背中に感じながら俺は我が家を見上げる。
日本造の家、とは少し違うのかもしれないが洋風と和風が混じった準和風なたたづまいだ。
近所の無駄におしゃれな家に囲まれてエルメスのティーカップに囲まれた有田焼のように目立っている。
「いや、別に……相変わらずでかい家だなぁ、とおもって」
周りと比べても倍の大きさはある。一般的な家と比べると4倍ぐらいはあるのではないのだろうか。
「大旦那さまは目立つのがお好きのようでしたから」
「そうだったな……」
この情景に合わない準和風な造りも無駄なでかさも、すべで先代、書類上は俺のおじいさんにあたる人物の趣味だそうだ。
俺がこの家に養子に来た時には既に亡くなっていたのであったことはないが、写真では見たことがある。
「では、入りましょう」
「ああ」
雪が先導して目の前に立ちはだかる木でできた門をくぐる。
庭は完全に和作りだった。
庭全体に白石が敷き詰められ、まるでここを通れと言わんばかりに石のタイルが玄関までのルートを示している。
耳をすませばどこからかカッコーンといった鹿おどしの音が聞こえてきそうだが、おあいにく様この家はそこまでの静かさとは無縁であった。
なぜならば……
「しぃぃいんちゃぁぁああん!!」
「ぐぼぁっ!」
突然、闘牛並のタックルが俺を襲った。
俺は胃の中のもの逆流しないようにこらえる。
が、次の瞬間にはやわらかくて暖かいプリンに口と鼻をふさがれ、外に排出させることさえかなわなくなった。
「むぐッ! むむぅう!!」
「しんちゃあん!! 心配しましたぁあ……」
「むぐぅ! ぐ……ぐぅ!!」
「どうして校舎から飛び降りたりしたんですかぁ! 無事だからよかったようなものを……危ないですよぉ!」
「……むぐぅッ……」
「そうやって、いつもいつも姉さんを心配させて! しんちゃんは悪い子ですぅ!」
「……む……ぐっ……」
「怪我で済めばまだいいほうです」
「………………」
「もしかしたら、死んじゃってたかもしれないんですよぉ……」
「………………」
「しんちゃんがいなくなったら……私……私……」
「……感極まっているところ申し訳ありせんが、美羽さま。ご主人様がおっぱいでおぼれ死にそうです」
「はわっ!」
みー姉がようやくおれを開放してくれた。
いきなり投げ出された俺の体は容赦なく地面にたたきつけられる。
「………………」
ぼやけた視界で、墨をこぼしたような真っ暗な空を仰ぎ見て俺は悟った。
(俺はここで死ぬんだだなぁ……)
短い人生だった。
死因が姉の胸というのはいささかかっこがつかないが、ある意味本望だ。
そうこう言っているうちに俺の横に見事な羽をもった天使が舞い降りてくる。
どうやらお迎えが来たようだ。
(どうせ、連れて行かれるなら爆乳エンジェルが……)
『ふっはっはっはっは! こんなところで死ぬとは……情けないぞ! わが同胞!!』
(………………狭山)
舞い降りてきたのは、天使ではなく悪魔だった。
どうやら俺は地獄に連れて行かれるようだ。
『……なんだ? 不服そうだな』
(いや、特に異議はないが……それよりもなぜお前が?)
『RPGとかでよくあるだろう? パーティーが全員死んでゲームオーバーになったときにしゃしゃり出てきて、助言を残して消える村長的なやつじゃよ!』
(……キャラが定まってないな)
『細かいことを気にするんでない!』
(細かいことなのか?)
『少なくとも今気にすることではないだろう』
(確かにそうだが……)
『しかし、この俺がこの場面で出てきたということにはしっかりとした意味がある』
(……? どういう意味だよ?)
『今、ここで貴様を失ってしまうと、後々の俺の作戦に支障が出るということだ』
(心底どうでもいいが……って、おい、こら、ちょっと待て! なぜ、おもむろに俺の顔に近づいてくる?)
『む? そんなことはわかりきっているだろう! 救命処置である人・口・呼・吸をするのだ!』
(…………は?)
『わ、私の初めてを……あなたにあげるわ……』
(きめぇよ!!)
『ふっはっはっはっは! キモいとはごあいさつだな!』
そういいながらも狭山は容赦なく俺の唇に向けて猪突猛進。
(まて! 早まるな!)
俺は必死に体を動かそうとするが、電池の切れたラジコンのようにうんともすんともいわかった。
『諦めるんだな! 俺にも抵抗はあるが、俺の計画の成功ためにはお前を失うわけにはいかんのだ!』
(その代りにもっと大切なものを失うだろうが!! ちょ! やめろ! いや、やめてください!)
こんなことなら地獄に連れていかれたほうがまだましである。
『むうぅぅぅぅ……』
「させてたまるかぁぁあああ!!」
俺は両腕を振り上げ立ち上がった。
まるで、世界タイトルマッチにKOで勝利したチャンピョンボクサーのように。
「はぁ……はぁ……」
(……ふっ……やってやったぜ!)
俺は額から流れるベットリとしたいやな汗を、先ほどの臨死体験で味わった不快感と一緒に拭った。
こんなところで俺のファーストキスを奪われるわけにはいかない。
「ふぅ……しかし、危ないところだった……」
「…………ご主人さまはキスすらもしたことがなかったんですね」
ぐさっ! 雪の冷静なツッコミが俺の心臓を容赦なく貫いた。
「う、うるさいな! いいじゃないか別に……それと、さりげなく俺の心を読むんじゃない!」
「それは失礼しました」
恭しく頭を下げる雪。
「しかし、ご主人さまがキスすらもしたことがないというのは、メイドの私としましては大問題。是非、私と一緒に童貞を捨てましょう」
「なんでキスから、童貞云々の話にになるんだ! そして、スカートをまくしあげるんじゃない!」
「すいません。私の場合はバージンでしたね」
「そういうことがいいたいんじゃねぇ!」
「だ、だめです! しんちゃんにはまだそういうことは早すぎますぅ! どうしてもしたいんだったら……わ、私がしてあげますぅ!」
「みー姉は、唐突にわけのわからんことを言わないでくれ……」
「では、3Pということでよろしいですか?」
「よろしくねぇ!」
(何だこのコンビは……)
俺はしみこむような頭の痛さ感じながら目頭を揉む。
雪のほうは確信犯だろうが、みー姉は天然で言っているのだから恐ろしい。
「だめですよ! お姉ちゃん許しませんからねぇ!」
「………………」
「ほえ? どうしたんですかぁ?」
さて、ここにきて『学校でのみー姉』しか知らない者には、おスぎとピーこの片割れがいッコーにすり代わっているぐらいの違和感にさいなまれていることだろう。
ここでうるんだ瞳で俺を見上げ、若干舌足らずにしゃべるこのむくな少女は、まごうことなく我が義姉の『新井 美羽』である。
別に、あまり人気が出なかったからキャラ変更をしてみたとかそういう裏事情ではない。
「それについては私が、ご説明いたしましょう」
「……おい、雪? 突然どうしたんだ……?」
作品名:学園を制し者 第四話 作家名:hirooger