学園を制し者 第二話
「はぁ……」
目の前のドアに貼り付けられている『生徒学園ライフ支援同好会』と書かれた張り紙の前で物憂いな気分になる。
(……さすがにやりすぎたかな)
胸の内ポケットに学園長のカツラが入っている違和感を感じながら、少し後悔していた。
俺が今いるのは学園内にある文化部部室棟、二階の一番端のドアの前だ。
(まぁ……ここでつっ立てても仕方ないか……)
俺はノックもなくドアを開いた。
気にすることいはない。この部屋の主からはノックはいらんっといわれている。
部屋の中は思ったより明るく小奇麗にかたずいていた。
というよりは、ものが少ない。
二人掛けのいソファーが二つ間にあるローテブルを挟み込むようにして置かれているだけだ。
「ぉお! 無事だったか! 我が同朋、新井 信也!」
やたらとハイテンションな演技がかった声で名前を呼ばれる。
部屋には先客がいた。ていうかこいつがこの部屋の主だ。
「……狭山か」
『狭山 八郎(さやま はちろう)』自称、革命児。
高校一年で俺とクラスメイトで、この『生徒学園ライフ支援同好会』のリーダーでもある。
神出鬼没なやつでそれなりの付き合いの俺でも行動の読めない。
「お前も無事だったんだな」
「ふっ、俺にとって生徒会と風紀委員の無能どもをまくなど造作もないことよ」
狭山はどこか面白くなさそうに息をついた。
「せめて生徒会副会長クラスが出てこんと俺は捕まえられん!」
この自信は一体どこからわき出てくるのだろう。
「で、健太は?」
「む? 奴ならもうすぐ帰ってくるだろう」
――バタン――
突如、ドアが勢いよく開かれ、一人の男が飛び込んできた。、
男はそのままの勢いでソファーにダイブ。
「ひー! ちかれた! ちかれた!」
「……噂をすればなんとやら……だな」
「おう! しん、もう帰ってたのか」
俺をしんと呼んだこの男は『六車 健太 (むぐるま けんた)』こいつも俺のクラスメイトだ。
制服のブレザーと赤いネクタイをだらしなく着こなし、荒々しくセットされた髪型は獣をほうふつとさせる。
まぁ、実際頭の中も獣並みなのだが、
「なんだよ! 俺がビリかよ!」
俺と狭山の姿を確認した健太は悔しそうにソファーに突っ伏した。
別に競っていたわけではないのだが、確かにいつもは健太が一番先に帰っていたりする。
持前の俊足を生かして、あっという間に追手をまいてきてしまうのだ。
「でもよぉ……なんか今日は追手が多くなかったか? 振り切るのに時間がかかっちまったぜ……」
「まぁ、俺がお前のほうに行くように仕組んでいたのだからな」
「てめぇのせいか!」
狭山が新事実を告白。被害者の健太は抗議する。
「して、新井。例の物はしっかりと持ってきているのだろうな?」
が、狭山は華麗にスルー
「ああ」
俺は学園長のカツラをブレザーの内ポケットから取り出して
「ほらよっと」
狭山に投げた。
「うむ、ごくろう」
狭山はカツラを受け取ると満足そうに眺めてから懐にしまった。
『無視すんなよ! お前ら泣くぞ! 俺が大人気もなく全力で泣くぞ!』
「てか、そんなもんいったいどうするんだ?」
健太のやかましい泣き声をBGMに俺は狭山に尋ねた。
「む? これは新聞部からの依頼品だ」
……なぜだろう。この一言だけで、明日の校内新聞の全面の内容がわかった気がする。
(……御愁傷様、学園長先生)
俺は心の中で手を合わせる。
まぁ、もともといい人柄の人ではなかったのでそんなに同情することもないだろう。
「それよりも新井。校舎の屋上から飛び降りたっと聞いたが?」
「うげっ! マジかよ……」
「……ああ」
狭山の話題転換に俺よりも早く食いついたのは健太だ。
いつの間にか立ち直ったらしい。回復力も獣並みだ。
「どういう手品を使ったんだ?」
「校舎の横に背の高い木があっただろ。そこに飛び移った」
「うぁ……相変わらず無茶なスペックしてやがるぜ……」
健太はまるで気違いを見るような目で俺を見ている。
まったくもって失礼なやつである。
「し、仕方ないだろ! それ以外に逃げる方法が思いつかなかったんだから!」
「仕方ないから校舎から飛び降りるやつはお前ぐらいだ……」
「ふぁっはっはっは! それでこそわが同胞!」
狭山は何がそんなに面白いのか高笑いしている。
しかし、狭山の高笑いはすぐに止んだ。
「どうした?」
「ふむ、来客のようだ。予想より少し早かったな」
「……?」
「お前の姉だ」
狭山は俺を一瞥してからドアに向きなおった。
――コンコン――
計ったかのようなタイミングでドアが控え目にノックされる。
「入るがいい!」
狭山のふんぞり返った態度を気にしないとでも言うように、丁寧にドアが開かれた。
入ってきたのは女子生徒二人、一人は生徒会副会長こと風見山で、もう一人は……
「これは、これは、生徒会長様。何か我が『生徒学園ライフ支援同好会』にようこそ」
狭山はどこかの劇団もしくは執事のように、片腕を体の前で直角90度にした状態でふかぶかと頭を下げた。
「こんにちは、狭山君、六車君、それとしんちゃん」
生徒会長は俺を見て優しく微笑む。
「……みー姉」
現生徒会長『新井 美羽(あらい みう)』は俺の義姉にあたる人だ。
身長は風見山よりもこぶし一つ分小さく、若干ウェーブのかかった髪からは上品な雰囲気と何かの花の様ないい香りをただよわわせている。
そして、風見山以上に母性的な体つきをしている。
……ぶっちゃけでかい
何がでかいかは健全な男子諸君なら分かっていただけただろう。
この学園では一年でも生徒会長選に立候補することができる。
しかし、一年のうちから生徒会長に選ばれるのは、ごく一握りの逸材だけだ。
そんな中ちー姉はその柔和な美貌と確固たる実力で学園の男女ともに魅了し、二期連続で生徒会長を務めていた。
だが、今はそんなことよりも気になるこどが一つ
「……お、おい? 俺を呪い殺したいのか?」
「………………」
俺はものすごい形相の風見山が俺をにらみつけていた。
「……か、風見山さん?」
「うるさい! バカ者!」
何もしていないのにいきなりバカ者扱いである。
「……お前が飛び降りたとき、いったい私がどれだけ心配したと思って……」
「ん? なんか言ったか?」
「な、なにもいっとらん!」
なぜか顔を真っ赤にしている風見山。何か怒らせてしまったのだろうか?
「して、天下の生徒会長様が『生徒学園ライフ支援同好会』に何か御用かな?」
話が進まないと思ったのか、狭山から生徒会長に切り出した。
「ええ……今日、先ほど学園長室で強盗事件が発生いたしました」
みー姉は狭山ににっこりと微笑む。
その笑顔はすべての罪を無条件で受け入れてしまうような、そんな慈愛に満ちたものだった。
「ふむ」
「こちらが確認している情報では、犯人は3人。煙玉を使用して、学園長室でおくつろぎになっていた学園長先生を襲撃、とあるものを盗んで逃走」
「とあるものとは?」
狭山の口元が楽しげに歪む。
「……学園長のカツラです」
……うん、なぜだろう?
こんなにしまりのないシリアスパートを見たのは生れて初めてだ。
健太も忍び笑いをこらえるので必死に悶えている。
目の前のドアに貼り付けられている『生徒学園ライフ支援同好会』と書かれた張り紙の前で物憂いな気分になる。
(……さすがにやりすぎたかな)
胸の内ポケットに学園長のカツラが入っている違和感を感じながら、少し後悔していた。
俺が今いるのは学園内にある文化部部室棟、二階の一番端のドアの前だ。
(まぁ……ここでつっ立てても仕方ないか……)
俺はノックもなくドアを開いた。
気にすることいはない。この部屋の主からはノックはいらんっといわれている。
部屋の中は思ったより明るく小奇麗にかたずいていた。
というよりは、ものが少ない。
二人掛けのいソファーが二つ間にあるローテブルを挟み込むようにして置かれているだけだ。
「ぉお! 無事だったか! 我が同朋、新井 信也!」
やたらとハイテンションな演技がかった声で名前を呼ばれる。
部屋には先客がいた。ていうかこいつがこの部屋の主だ。
「……狭山か」
『狭山 八郎(さやま はちろう)』自称、革命児。
高校一年で俺とクラスメイトで、この『生徒学園ライフ支援同好会』のリーダーでもある。
神出鬼没なやつでそれなりの付き合いの俺でも行動の読めない。
「お前も無事だったんだな」
「ふっ、俺にとって生徒会と風紀委員の無能どもをまくなど造作もないことよ」
狭山はどこか面白くなさそうに息をついた。
「せめて生徒会副会長クラスが出てこんと俺は捕まえられん!」
この自信は一体どこからわき出てくるのだろう。
「で、健太は?」
「む? 奴ならもうすぐ帰ってくるだろう」
――バタン――
突如、ドアが勢いよく開かれ、一人の男が飛び込んできた。、
男はそのままの勢いでソファーにダイブ。
「ひー! ちかれた! ちかれた!」
「……噂をすればなんとやら……だな」
「おう! しん、もう帰ってたのか」
俺をしんと呼んだこの男は『六車 健太 (むぐるま けんた)』こいつも俺のクラスメイトだ。
制服のブレザーと赤いネクタイをだらしなく着こなし、荒々しくセットされた髪型は獣をほうふつとさせる。
まぁ、実際頭の中も獣並みなのだが、
「なんだよ! 俺がビリかよ!」
俺と狭山の姿を確認した健太は悔しそうにソファーに突っ伏した。
別に競っていたわけではないのだが、確かにいつもは健太が一番先に帰っていたりする。
持前の俊足を生かして、あっという間に追手をまいてきてしまうのだ。
「でもよぉ……なんか今日は追手が多くなかったか? 振り切るのに時間がかかっちまったぜ……」
「まぁ、俺がお前のほうに行くように仕組んでいたのだからな」
「てめぇのせいか!」
狭山が新事実を告白。被害者の健太は抗議する。
「して、新井。例の物はしっかりと持ってきているのだろうな?」
が、狭山は華麗にスルー
「ああ」
俺は学園長のカツラをブレザーの内ポケットから取り出して
「ほらよっと」
狭山に投げた。
「うむ、ごくろう」
狭山はカツラを受け取ると満足そうに眺めてから懐にしまった。
『無視すんなよ! お前ら泣くぞ! 俺が大人気もなく全力で泣くぞ!』
「てか、そんなもんいったいどうするんだ?」
健太のやかましい泣き声をBGMに俺は狭山に尋ねた。
「む? これは新聞部からの依頼品だ」
……なぜだろう。この一言だけで、明日の校内新聞の全面の内容がわかった気がする。
(……御愁傷様、学園長先生)
俺は心の中で手を合わせる。
まぁ、もともといい人柄の人ではなかったのでそんなに同情することもないだろう。
「それよりも新井。校舎の屋上から飛び降りたっと聞いたが?」
「うげっ! マジかよ……」
「……ああ」
狭山の話題転換に俺よりも早く食いついたのは健太だ。
いつの間にか立ち直ったらしい。回復力も獣並みだ。
「どういう手品を使ったんだ?」
「校舎の横に背の高い木があっただろ。そこに飛び移った」
「うぁ……相変わらず無茶なスペックしてやがるぜ……」
健太はまるで気違いを見るような目で俺を見ている。
まったくもって失礼なやつである。
「し、仕方ないだろ! それ以外に逃げる方法が思いつかなかったんだから!」
「仕方ないから校舎から飛び降りるやつはお前ぐらいだ……」
「ふぁっはっはっは! それでこそわが同胞!」
狭山は何がそんなに面白いのか高笑いしている。
しかし、狭山の高笑いはすぐに止んだ。
「どうした?」
「ふむ、来客のようだ。予想より少し早かったな」
「……?」
「お前の姉だ」
狭山は俺を一瞥してからドアに向きなおった。
――コンコン――
計ったかのようなタイミングでドアが控え目にノックされる。
「入るがいい!」
狭山のふんぞり返った態度を気にしないとでも言うように、丁寧にドアが開かれた。
入ってきたのは女子生徒二人、一人は生徒会副会長こと風見山で、もう一人は……
「これは、これは、生徒会長様。何か我が『生徒学園ライフ支援同好会』にようこそ」
狭山はどこかの劇団もしくは執事のように、片腕を体の前で直角90度にした状態でふかぶかと頭を下げた。
「こんにちは、狭山君、六車君、それとしんちゃん」
生徒会長は俺を見て優しく微笑む。
「……みー姉」
現生徒会長『新井 美羽(あらい みう)』は俺の義姉にあたる人だ。
身長は風見山よりもこぶし一つ分小さく、若干ウェーブのかかった髪からは上品な雰囲気と何かの花の様ないい香りをただよわわせている。
そして、風見山以上に母性的な体つきをしている。
……ぶっちゃけでかい
何がでかいかは健全な男子諸君なら分かっていただけただろう。
この学園では一年でも生徒会長選に立候補することができる。
しかし、一年のうちから生徒会長に選ばれるのは、ごく一握りの逸材だけだ。
そんな中ちー姉はその柔和な美貌と確固たる実力で学園の男女ともに魅了し、二期連続で生徒会長を務めていた。
だが、今はそんなことよりも気になるこどが一つ
「……お、おい? 俺を呪い殺したいのか?」
「………………」
俺はものすごい形相の風見山が俺をにらみつけていた。
「……か、風見山さん?」
「うるさい! バカ者!」
何もしていないのにいきなりバカ者扱いである。
「……お前が飛び降りたとき、いったい私がどれだけ心配したと思って……」
「ん? なんか言ったか?」
「な、なにもいっとらん!」
なぜか顔を真っ赤にしている風見山。何か怒らせてしまったのだろうか?
「して、天下の生徒会長様が『生徒学園ライフ支援同好会』に何か御用かな?」
話が進まないと思ったのか、狭山から生徒会長に切り出した。
「ええ……今日、先ほど学園長室で強盗事件が発生いたしました」
みー姉は狭山ににっこりと微笑む。
その笑顔はすべての罪を無条件で受け入れてしまうような、そんな慈愛に満ちたものだった。
「ふむ」
「こちらが確認している情報では、犯人は3人。煙玉を使用して、学園長室でおくつろぎになっていた学園長先生を襲撃、とあるものを盗んで逃走」
「とあるものとは?」
狭山の口元が楽しげに歪む。
「……学園長のカツラです」
……うん、なぜだろう?
こんなにしまりのないシリアスパートを見たのは生れて初めてだ。
健太も忍び笑いをこらえるので必死に悶えている。
作品名:学園を制し者 第二話 作家名:hirooger