君がいなくても
おもしろい、これ、笑い話になるかなあ。ていうか笑い話にしてほしい。笑い飛ばして欲しい。そんで、私にもちゃんと男を躾けてなかったバカ女だって言って笑ってほしい。
じゃあ、蛇足としてもっと面白いオチをつけようかなあ――今頃ブンちゃんは気を取りなおしてあの女とエッチしてます!とかさ!へー、ちょっと無難だけど中々イイじゃん。なんかもう、わけわかんないし。悲しいのか面白いのか。
私は自由だ。だって泣いてるよ、笑ってるけど。こんなに悲しい別れ話なのに面白くて泣いている。彼との楽しかった思い出が体中を駆けめぐった。まるで走馬灯みたい。あれ?走馬灯って死ぬ前にみるやつだったっけ。へーっじゃあ私死ぬんだ。まあ、その走馬灯が体験できて私すごく楽しいのだ。だから、みんな笑ってください。ええ、盛大に。
「あーっ お腹痛い、あはは、あは、は ――」
どさっ…
体が重くて。もう、笑いすぎて。道ばたに寝ころんだ。地面がヒンヤリしていてなんだか。そう、なんだか気持ちよくて。私は泣いていた。笑っていた。ん?どっちだ?とりあえず私を取り囲んで親切な人たちが大丈夫ですかと声をかけてくれた。大丈夫じゃねえっつーのばーか、こっちは笑いすぎで腹が痛いんだよ。
ブンちゃんがここに居たら笑うかな。何してんだ仁美って言って面白がるかな。ああ、ごめんなさい親切な方たち。心配しないで。笑い飛ばして。あのね、私ねさっき、つい10分ほど前なんですけどね?最愛の彼氏が浮気してて、他の女とエッチする寸前に出くわしちゃったんですよ。世に言う修羅場です。最高でしょ?面白いでしょ?自分ちょお哀れ。もういいやーって思って、それでもほんとはちょっと期待して別れよって言ってそのまま飛び出してきたんですよ、そしたらまさかの追いかけてもこないってー!今ごろ彼はあの女とアンアン言ってますよ言わせてますよ。ハアハア言ってますよ。ね?笑えるでしょ?おっかしー。
さっきまで保っていた理性が一気に決壊した。ばかだなぁ、私ほんとばか、さっきあの場面で決壊すべきだったのにね。損した。どーするよ。ちょーうける。
あーーー…