君がいなくても
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嘘です、ちょっとカッコつけてみました。1番良くない選択でした。
なくしたものの大切さと大きさに今気付いた、とか。部屋を出てからまだ10分しか経ってないけど、もう後悔してます、とか。商店街を抜けた。どうせ着信も来ない。
もう、だって終わったんだから。…いや違う。終わらせたんだから。
思いつきで携帯を開いてみた。ちょこっとの期待を込めて。着信もメールもなし、だ。ここまで執着されてないとなると逆に笑えてくる。せめて言い訳とか無いんかい。私ばっかり好きだったんだ。
まさか産まれて17年目でこんな修羅場ってモンに遭遇するとは思わなかった。まあ私は平和主義者だから修羅場にせずに別れてきたんだけど。ああ、人間って面倒。
「ああ、うける」
自嘲した。ばかみたいだ。
彼、(今となっては元カレか。)ブンちゃんとは付き合ってまだ、七ヶ月目だった。私にとっては最高記録だけど、この先何年もブンちゃんと付き合っていくって決めてたから、短い終わりだった。恋愛なんてそんなもんだけど、さ。私はそんなささやかな夢を見てた。ずっとこの人と一緒にいたいって。本心だよ、
それでも最悪な終わり方。あっけない。あの女どこの人だろう?同じ立海?いや、あんな顔見たことない。でも立海だったらもっとうける。廊下ですれ違ってたりしたらもっとうける。むしろ私より親友の瑞希あたりが腹をかかえて笑い転げそうだけど。仁美まぬけーなんて言いながらさ。できたらそうしてほしい。ようはあれだ、転んだときに心配されたくないのと同じ気持ちだ。あれ?私何考えてんだろう、ばかみたい、ちょっとテンパってどうしたらいいかわかんない。ああ、うける。
「アハハ」
笑ったら、体中の引き裂かれそうな切ない痛みで、そしてその苦痛で涙がこぼれた。おかしいね。
ああ、泣いてる私。犬のキャリーが死んで以来だ。せっかくした化粧が落ちてしまう。ていうか、こんな人混みで泣くとかありえない。みっともないなあ。それでも涙は止まってくれない。なんで?とまれよ、ながれんな涙。なんで?私の体でしょ私の脳みその言うこと聞けよ。
笑いながら泣いてる。ホントなんなんだ私、ただの変態じゃん。すれ違う人たちが好奇の目で私を見てるし。見ないでよ、恥ずかしい。男に浮気されたんだよ。ばーか。しかも運悪く今からヤりますけどみたいなところに出くわしたんだよばーか。そしたらブンちゃんが固まって今までみたことないような焦った顔をした。うわ、思い出したら案外面白いぞ。どういうこと、とか聞けばよかったの?
女の子も女の子で、私が彼女というのを知ってか知らずか「誰この人?」とか悪びれもなく言ったのでそれはこっちの台詞ですと頭の隅っこで突っ込んでみたけどさすがに言葉にするまで回らなかった。そして冒頭に戻る。
私は潔く別れを選んだ。もう別れる、ばいばい。ブンちゃんは固まったままだった。女の子の頭の上にはクエスチョンマークがたくさん浮かんでいた。うん、はじめまして、私あなたを押し倒しているその男の彼女です。私はそのまま彼の部屋を出た。そんで、それが10分前。追いかけてもくれない。電話もくれない。そんな冷たい男に何を必死でしがみついていたんだ。情けない。
「あはは、アハハハ」