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喫茶銀河「いつも私だけを見ていて」

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窓際を背にして店内が見渡せる位置に妻。そして向かい側に夫。妻の目には店内の様子が色々見えるが夫には自分の前に座る妻だけしか見えない。
 結城は、ふと微笑ましい気持になった。きっとこの男性は喫茶店に入っても奥さんだけを見つめていたいのだ。俳優のような男前の男性は昔はさぞ女性に持てたことだろう。今まで色々な女性を見てきたかもしれない。でも今は妻だけを見つめていられるのは愛があるからだ。結城はこの夫婦の何十年という人生に思いを馳せた。
「いつものブルーマウンテンお願いね」
妻がにっこり笑いながら久美の顔を見る。夫も頷いている。
女性には、パステル風の淡い花柄のカップ。男性には白地に紺の線がくっきり入ったカップ。これがこのふたりのお決まりのカップなのだ。初めてここへ来たときに久美がこのカップで出したら、夫人が感心したように言ったものだ。
「私たちの雰囲気に合わせてくれてありがとう」
 夫人の華奢な白い指が優雅な感じなので久美はいつも見とれてしまう。
「そろそろ秋ね」
「うん、今年は何処へ行く?」
「ウィーンの秋もステキでしょうね」
「そうだね、思い出のウィーンに又行くか」二人の会話はそんな感じで進んで行く。今までの人生は忙しく、さまざまなことを乗り越えてきたのだろう。妻はこれからは「いつも私だけを見ていてね」と、心の願いを夫に向けているのかもしれない。
 結城は思った。
「こういう風に歳を取るのは悪くないな。しかし俺には伴侶がいないじゃないか」
 45歳のマスター結城は傍らの久美を見ながら苦笑した――。

終わり



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