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遠くで暮らす母を訪ねる息子とその恋人

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「でも、月が綺麗ね、こんなに満月が綺麗だとは思わなかった」とユウはため息ついた。
二人で月を眺めていたら、アキラの携帯が鳴った。
母親からだった。
「どうした、こんな夜に?」とアキラが迷惑そうに言った。
「月を見ていたら、突然、あなたが、今年、帰ってこないのかと思って。それで電話をしたの」と寂しそうに言った。
今にも泣き出しそうな声だ。
「うん、でも、今は一人じゃないから」
「一緒に暮らしている女の人。良かったら連れてきてよ」
アキラはためらっているのを見て、ユウが聞いた。
「どうしたの?」
「“今年の夏、ユウを連れて帰ってこないか?”と言っている」
ユウは「いいよ。一緒に行っても」
アキラは「気が向いたら帰るよ」と言って電話を切った。
「アキラは、お母さんの前だと、シャイなのね。本当は甘えん坊でしょ」
「どうして、そんなことが分かる?」
「女の直感よ」とユウは笑った。
二人で、夏、アキラのふるさとの山形県に行くことにした。

夏が来た。連日、焼けるような日差しが降り注いでくる。
二人でアキラの故郷に行く日が来た。
前の日、「明日行くから」とアキラは母親に伝えた。

列車をいくつか乗り継いで、二人はようやくアキラの故郷に着いた。
海が見えた。
列車を降りたとき、ユウの第一声が「随分、遠いね」
「そうだな」
「でも、海から吹き寄せる風が気持ちいい」
「俺、音楽家になれないような気がしてきた。だから、サラリーマンでもやろうかと思う」
「まじめに言っているの?」
「真面目だ。ちゃんと仕事について、お前と結婚して、お袋を安心させたい。いつか一緒に暮らしたい」
「一緒に?」とユウは聞き返した。
「嫌か?」
「嫌じゃないよ」
二人、顔を見合せ笑った。その笑い声は、待っていた冬子の耳にも届いた。
冬子は寂しさと嬉しさが混ざった複雑な思いで二人を出迎えた。