秘密主義者は今日も
「優雨ちゃーんっ!」
聞いたことのあるような声が教室の入り口から聞こえた。見れば、そこには思っていた通りの声の主、時十由来が前とは違う、周りが目を奪われるような綺麗な顔で微笑んでいた。
「…どうしたの?」
前にも聞いたなと思いながら、入り口に立つ相手へとそう聞く。すると突然、「ハイッ」と、何かを手渡された。…これは?
「昨日のお礼。クッキー焼いたんだー。甘いもの平気だったよね?よかったらもらってちょーだいっ」
確かに手渡されたものは、綺麗にラッピングされたピンクの袋。中から甘い、香ばしい香が漂っていた。そういえば料理もできるんだった。カンペキなやつめ。しかし…、プリントを見せてもらってそれでおあいこだと思っていたのに…なんて律儀な。私がそう思っていると、由来が感づいたように話掛けてきた。
「受け取りにくい?でも他に渡す相手もいないからもらってね。…それでももらえないというならば~」
そう言葉を区切った後、由来が不気味な顔をしてふふふー、と口元に手を当てて笑ってみせる。一体、なんだというんだ。そう私が訝しげな顔していると。びしりっと一指し指をたて、提案するかのようにこう言った。
「休日、私と遊びましょー!」
「…なぜそうなる」
私は、無意識にもそうツッコミを入れていた。
まぁ、結局。その週末由来と遊ぶことになってしまった。なんでも、私が行きたいからです!わがままです!すいません!!とのことだ。私は特に断る理由もないし、第一なぜかクッキーも押し付けられ、挙句の果てに本人目の前に食していた。なのに…
「どうしてこうなった…」
「え?なにが?」
「クッキーもらったよね?食べたよね?」
「うん!美味しいって言ってくれたよね~」
「じゃあ、なぜ!?」
「うん?」
「なんで私はこんなところにいるんですか、教えてくださいよ由来さん」
「や、やめてやめてー、暴力はなしなしっ!」
あまりの能天気さに思わず由来の胸倉掴みグラグラと揺するが、何より背が高いためそんなに効果はない。週末に至った今日、目的地遊園地前にして、なぜこんなことをしなければいけないのだ。だが、由良は私が相当怒ってると見たのか、素直にごめん、と謝罪した。
「だってー…、他にいい口実が見つからなくて…」
「何が?」
「…普通に誘っても、優雨ちゃん、遊びになんかいかないでしょ?」
そう言われてしまうと言い返せない。私が押し黙ると、チャンスだと思ってか、れっつごーっ!と走って遊園地の中へと入って行ってしまった。…ここで私が帰ったらヘコむだろうな。
しかしそう考えても、そんなことをする気もない自分にほとほと呆れる。何より、そんなに嫌じゃない。由来と遊ぶこと自体に、嫌なことなんてない。私が嫌なのは…
「優雨ちゃんっ!はやくーーっ!!」
中で足踏みする由来が私を呼ぶ。まるで子供のようだ。
その様子を見て、ふと思った。なぜ、行き先が遊園地なのか、と。親の都合で転校を繰り返す由来。実際、家庭がどうなっているのかは分からないが、遊園地などの極楽施設に、果たして家族と訪れたことはあるのだろうか…?そんな考えが浮かぶ中、私は自然に歩を進めた。多分、聞いても
――――彼女は絶対応えない。