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高校生・恋愛・短編・オリジナル

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「今日さ、3組の男子で、1組と3組の女子で誰が一番可愛いかって話があったんだけどさあ」
商店街のマックの階段を上り、トレーを置くと上岡はそういった。
「へえ、明日3組の女子にそのこと言ってやろォー。上岡が先導したとも付け加えて」
「おい、早速暴露しようとするなよ」
「東谷のことだからどうせ忘れるって。というか何で1組と3組なん?」
その上岡の隣に座った倉沢が先を促す。
「あ、1組と3組って体育合同だからですか?」
「そう。あ、簗瀬は話し始めた時、近くにいたもんな」
「簗瀬も話に参加したのか?」
女性雑誌モデルのような中性的な顔立ちの簗瀬がいう。
「いえ、人の顔覚えるの苦手で…聞いてただけです」
「で、誰が一位だった思う?」
「え、簗瀬とか?」
「ひ、ぼくですか」
半ば本気でいうと、ハスキーな声で悲鳴を上げる女顔の簗瀬。
「女子だって言ってんのに何でメンズが一位だよ。簗瀬ならあり得るけど」
3人で怯える簗瀬の顔を見る。先日の学校祭のときに女子の制服を着させられたのを思い出す。
「簗瀬じゃないなら、フツ―に中瀬じゃないの?」
「おー、正解正解」
男に生まれたのが悔やまれる顔から眼をそらし、倉沢が答える。
「やっぱり分かるかー」
「そりゃあね。うちのクラスの人はほとんど好きなんじゃない?女子も含めて」
「えー、そんなモテんの?」
残念そうに言う。
「小顔でかわいいし、髪はさらさらできれいだし、聞き上手だし。当然でしょ」
「あ、学校祭のとき、すごい同時に4人に告られたって人ですか?」
「お、簗瀬でさえ知ってる」
「何というか、おしとやかな人ですよね」
「うん。前は地味…じゃなくて目立たないなほうだったけど」
「そう。夏休み明けたらすげえかわいいのがいたからびっくりした。転校生かと思った」
「眼鏡からコンタクトになったし、髪型も少し変えたっぽいね」
思い出しているのか、両の黒目を左上が移動する。
「しかも料理部で、お菓子作りとかうまいんだろ。あーあ、こんなことならもっと話しかけときゃよかった」
「お前、どうせ別のクラスじゃん」
一応訂正を入れる。
「何だっけ?男を惚れさすには料理が一番っていう言葉があるじゃん」
「ああ、男心を掴むならお袋を掴むべしってやつ?」
「お袋じゃなくて胃袋だと思います」
「いや、子供の見合いに親が出張ってくる時代だし。案外当たってるかもだぜ」
「それはそれで恐いなー」
倉沢の間違いを律儀に正す簗瀬におれは悪乗りする。
「そうじゃなくて!だから料理ができる女の子はいいよなってこと。だから中瀬もいいよなってこと」
「おれ、学校祭でクッキーもらった」
「はあ?死ねよ!」
上岡が血相を変えて不吉なことを言う。
「待て待て、クラスの女子と、結構仲いい男子数人はもらってたよ」
「東谷は?」
「もらってねえよ」
もちろん味方はしない。
「証言は得られなかった。判決、倉沢は次のマックみんなの分おごれ」
「拒否する。あ、そういえば東谷、中学のとき告られたことあるじゃん」
「ここでおれに話を振るな」
「え、そうなんですか」
「生意気な…お前もおごり決定」
「拒否する。それに知らないやつだったから断ったよ」
苦い表情になったのが自分でも分かった。
「そうそう!なんだっけか、バレンタインの日に東谷、別のクラスの子からチョコレートもらったんだよ。でもこいつチョコレート苦手だし、そのうえ『知らない人から言われても困んだけど』とか言ってガン飛ばして泣かせちゃったんだ」
人の不幸はなんとやら。嬉々として倉沢が語る。
「うわー…東谷くんらしいですね」
「最悪。やっぱおごれ」
「だってあっちは2人?だったか3人だったかで徒党を組んで来るんだぜ?その後『女の敵!』みたいな扱い受けるしよ」
「人数は関係なくね?」
「なんかイラっときたんだよ、子供みたいで」
多分、と頭の中で付け足した。あまりよく覚えていないのだ。
「それと、そんなに中瀬が気になるならに倉沢に紹介してもらえば。小中同じだから」
腹も減っていたので、倉沢に話を振って湿ったチーズバーガーの包装を剥がす。
「いや、小中って言ったら東谷も同じじゃん」
「それは…幼馴染ってやつですか」
「簗瀬、話を聞いてくれ」
「えー幼馴染じゃん。いいなー」
「お前も話聞けよ」
「へえ、どんな感じだった?」
「さあ…中瀬って名前自体覚えてないんだよね、よく。東谷は?」
「高校デビューってやつでしょうか」
「多分。高校入ってはじめの頃自己紹介があって、その時初めて同じ中学って知ったくらいだし」
そう言ってマックポークに食いつく。
「よく覚えてるな倉沢は。特に女子」
「倉沢チャラいからー」
「はあ?おれチャラくないし」
「上岡はお前が羨ましいんだよ、モテるから」
「別に羨ましくねえし!」
「あ、そうなの。じゃあ他校の子とかを紹介とかもしなくてもいい?」
「すいませんうそです羨ましいです」
「上岡くん…」
簗瀬が中性的顔立ちで力なく笑う。
「ジャニーズ遺伝子を持つ簗瀬には分かんねーよぉー」
わけのわからないことを言って頬杖をつき、
「ああ、彼女欲しい」
とこぼす。
「おれならこんなチャラ男と違って大事にするのになぁー」
「指差さないでくれよ」
突き出す指を倉沢は振り払う。
「でも上岡くんはかなり一途そうですよね」
「そう。おれ一途なの。尽くすタイプだから」
「ああ?絞り尽くすとか?」
「おれはヒモかよ」
「いや彼女いないからヒモ以下だろ」
「ほんと、東谷の言葉ってほんとによく冷えた刃物みたいだよな」
涙腺から水が零れないように天井を見る上岡。
「あー…簗瀬とかは彼女の前だと性格変わりそうだよね」
その肩をさすりながら倉沢は簗瀬に話を振る。
「普段と真逆でドSになるとか」
「な、なりませんよ~」
「確かに。女王様みたいになったりすっかもな」
「え~、じゃ、じゃあ倉沢くんはどうなんですか」
「おれ?おれはあんま変わんないよォ」
「そうだな」
ポテトを口に運ぶ、倉沢に同意する。
「こいつ、ホストみたいに手慣れてるから」
「例えがひでえー」
「嘘じゃねえだろ」
「東谷くんは、どうなるんでしょうね」
想像しにいですけど、と申し訳なさそうに言う。
「さあなあ」
「おれはあんまり変わんないと思うな」
倉沢が頬杖をつく。
「中学から一緒だけど全然変わってないし。女子にも男子にも同じ態度だし」
「いや、こいつこんなこと言ってぜってーでれでれになるな」
眼球保湿液を引っ込めた上岡がここぞとばかりにおれに弓を引く。
「友達の前ではなんでもないように振る舞いながら、きっと二人きりのときは赤ちゃん言葉でとか喋るんだよ。『まだ一緒にいたいでちゅー』とか」
「上岡。キメェ」
おれは正直な心で言葉を送った。
「東谷くんに限ってなさそうですけど」
「いや、なる。つか、そうなれ。そして破局した時に情けなく泣き喚けばいいのさ」
そう言って上岡はポテトの先でおれを指す。
「赤ちゃん言葉はいいとしても、お前の期待にだけは応えたくねえ」
「でも、中瀬ってフリーだよな。彼氏出来たらどうなんだろ」
「そりゃ、相手次第だろ」
「例えばおれだと?」
「不幸になるな」
「リングか」