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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(15節~21節)

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「はい…。さすがに、目の前で見ると…。凛様は、…迷い、ないですよね」
 凛は、冷然と言い放った。機械的な冷たい声で。
「どうと言うことはない。こんな物は、『作業』だ」
 そう語る凛のたたずまいに『超然』としたものを感じ、
ツツジはごくりと固唾をのんだ。
凛の青い目が、無機質な、冷たい、赤い光を放ったような気がした。


 凛にとって変異体を駆逐する行為は文字通り、『作業』であった。
 ――凛・A(アキレア)・アルストロメリア。
 アキレアの花言葉は、『真心を持って・戦い・指導』。
アルストロメリアの花言葉は、『未来への憧れ・エキゾチック・機敏・
持続・援助・凛々しさ』。
 凛は、二つの属性を兼ねた新世代型のマジェスター。
デュアルスキルタイプの第一号だった。
近年のミドルネームを持つマジェスターは、おおよそこの例に当てはまる。
 アキレア属の能力は、戦闘行為にまつわる『全て』への特化。
アルストロメリア属の能力は、分子の制御支配。
 凛は、戦闘――特に変異体駆逐に特化したマジェスターである。
彼女は、物事を0と1で判断し、確率論で取捨選択を行いデジタルに思考する。
その思考回路はまさに『機械』(マシン)そのもの。
 マシン的に思考するが故に、外的要因、内的要因から来る
心理状態の変化にパフォーマンスを左右されることがない。
 常人ならば生命に関わる状況下でのプレッシャーや、細心を払わね
ばならない繊細なオペレーションであろうとも、凛は平常を保っていられる。
 たとえ相手が元、人間であったモノだとしても、凛は躊躇なく剣を
振り下ろし葬り去る。そこには一切の迷いも、ためらいもない。
 怜悧・冷徹・合理的に、作戦を確実に遂行・完遂する凛は、
こと変異体撃滅に関して、『最強』のマジェスターと目されていた。

 ギギギと、ブリキが鈍く軋むような音が聞こえた。
 停止した筈のUG−MASが再び動き出し、躯体の間接部から
黒い触手が生え、一斉に凛へと襲いかかった。
触手の先端は、人の掌を模した形状をしている。
「凛様!」
 言うよりも早く、ツツジはすでに動いていた。
発した脳量子波に感応し、彼女の背後に左右三門づつ――
普段それは量子情報として虚数化され、ユニバーサルネットワーク上に
格納されている――計六門の機動型マルチカノンが現出した。
 牽引装置により腰の周りを取り巻くように浮遊している追加装甲。
五枚の金属板が横に連なりプリーツスカートの形状を模している
装甲が放射状に分かれ円周展開し、回転を始めた。
それは粒子加速器で、マルチカノンにエネルギーを
供給・送信する役目をはたす。
 エネルギーが充填され、カノンの先端に青白い電光が灯った。
 砲身の中で、音速域にまで加速された構造体が発射され
変異体と化したUG−MASの足部に着弾した。
 電磁力を用い、構造物を砲身の中で加速させて射出し、
目標に物理的損害を与える兵器――いわゆる、レールガン。
 レールガンの直撃を受けて、UG−MASの足部が爆ぜ飛んだ。
機械部品で構成されているはずの構造内から、肉を焼いたような
臭いが漂い、べちゃべちゃと赤黒い液体がただれ落ちていく。

 凛の眼前に無数の掌――触手が迫る。
 掴み掛かろうとして来た触手をリソース・パニッシャーを振るい、
ことごとく打ち払う凛。
適当にいなしてから彼女は、コックピットハッチを蹴って、
床にめがけ飛び降りた。
「パイロットとの接触で、素子が伝染していたか!」
 着地と同時に疾走。
「スキャン完了、バニッシュ<撃滅>する!」
足を失い床に倒れ込もうとしているUG−MASの背中へと回り、
リソース・パニッシャーを振り下ろす。
 量子の位相状態を0に書き換えられ、UG−MASの躯体が、
頭部から胴体部にかけて真っ二つに裂かれた。
断裂面から黒い液体がぶちまけられ、白い床を黒く染め上げる。

 ガシャン…!ガシュ、ガション! 

 四方から、金属の床を踏みならす大質量の音が聞こえた。
「ふっ…、『楽しく』なってきたな」
「凛様ぁー…」
「安ずるな、ツツジ。”私がいる”」 
 その一言を聞いて、ツツジは弱気を打ち払った。
「…はい!…ったく、とんだことになったわ…!」
「…さぁ、往こう。『作業』を、始めようじゃないか…!」
 二人を取り囲むように、”それら”はにじり寄ってきた。
その数、総計八――いや、増えた。
総勢十二機!
その装甲の隙間から、無数の黒い触手が生え、うねうねと踊り狂っている。
 ハンガーエリアに安置されていた全てのUG-MASが、人型の
シルエットを現し、頭部の赤いゴーグルアイを仄暗く光らせた。
 二人は、武装を展開し身構え、跳躍する。
 
 ――彼女たちは、知らなかった。
先ほどの黒い液体が、ずぶずぶと、ゆっくりと…、
床の隙間に沈み込んでいったのを。