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看護師の不思議な体験談 其の十六

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 バイクを走らせ、今日も元気に仕事に向かう。本日は準夜勤務のため、夕方から深夜1時までの勤務体制となっている。
夕陽を見ながら、いつもと同じように駐輪場へ入ると…。
「うわぁっ!」
 何にびっくりしたかって、駐輪場の通路の真ん中に、真っ黒い物体が…。
 目を細めてよく見ると、…猫。
(いつも、この猫に驚かされる…)
「びっくりしたぁ。こんなとこで寝てたらいつかひかれるよ、あんた。」
 病院に住み着いている、あの黒猫。バイクの音くらいじゃ、びくともしない。
「何歳くらいなのかな。そのどっしりした態度は…、結構いい年してるの?」
 そう呟きながら、バイクを停めた。鍵をかけ、鞄とコンビニの袋を持ち上げた。
 コンビニのビニール袋が、ガサッと音をたてる。その瞬間、黒猫は耳をピクッと動かし、考えられない俊敏さで私の足元に走ってきた。

「えっ?」
 黒猫は私に構わず、ビニール袋の中に顔を突っ込んで物色している。
「ちょっと、それ、うちのお昼ごはんなんですけど。」
 顔を出した黒猫は、真っ黒な瞳を大きく開いてじっとこちらを見る。きっと、よく患者さんが内緒でエサをあげているので、ビニール袋の中には食べ物が入っているのだと分かるのだろう。
 この黒猫…、なんというか、愛想はない。甘えた泣き声もないし、かわいらしく擦り寄ることもない。いつも、我が物顔で駐輪場に居座っている。
 でも、なぜだか、かまいたくなる。食べ物持ってるときしか寄って来ないのだが、患者さんがかわいがっている理由もなんとなく分かる。
「しょうがないな…。」
 そばから離れない黒猫に呆れつつも、しゃがんで袋の中からパンを取り出した。
(職員が野良猫にエサをあげたら、怒られるんだけど…)
「ほら。」
 パンを半分にちぎって渡すと、がぶっと口にくわえて、くるりと向きを変えた。そして小走りで植え込みの陰に隠れてしまった。
「もう、かわいくない。…あの素早さは、やっぱりまだまだ若いのかな。」
 懸命にパンを食べる猫を横目に、立ち上がり、仕事に向かった。