喫茶銀河「憧れの人」
土曜日の昼下がり――。
喫茶「銀河」は賑わっている。暑い夏が去って秋風が吹き始めると温かいコーヒーが飲みたくなるものだ。
ここのコーヒーは美味しい、お客のイメージに合わせてカップを用意してくれると口コミで広がり、かなり有名になった。
しかも、客の一人が自分のブログで「銀河」を紹介してくれたので、ますます人気は高まるばかりだ。
本当にありがたいことだ、とマスターの結城は今日も香り高いコーヒーを淹れながら店内を見渡す。
ウエイトレスの久美は忙しそうに動いている。
窓際の少し離れた席に一組の男女がいる。男はかなり若い。爽やかな雰囲気はまだ学生を思わせる容貌だ。女は――、明らかに年上だ。
30近いかもしれない。きりっとした知的な美人の大人の女だ。さっき注文をとりにいった久美が興奮気味に結城に伝えた。
「あの人、シナリオライターの木野詩織さんよ」
「へえ、そうなんだ。久美ちゃん、よく分かったねえ」
結城はもう一度女性のほうを見た。
「有名ですよ。最近の夜のゴールデンタイムのドラマのシナリオは、たいてい彼女の作品なんです」
久美の声がワクワクとときめいている。思わぬところで出会ったのが嬉しいのだろう。
久美はドラマシナリオに関心があって週に一度都心の教室に通っている。いずれは彼女もライターになりたいのだ。
そんな久美にとって木野詩織の存在は強い憧れの理想の人なのだろう。
「ほう」
結城は木野詩織を見つめた。美しい女だ。
久美は詩織のために、白地に紺のツタの絡まる紋様の入った、格調高いロイヤルコペンハーゲンのカップを選んだ。それはこの店でも特別なカップなのだ。
木野詩織こそ、気品に満ちたロイヤルコペンハーゲンが似合うのだろう。そして、久美が男の方には普通のカップを選ぶのを見て結城は苦笑した。
久美がコーヒーを運ぶと木野詩織が声をあげた。
「まあ、ロイヤルコペンハーゲン!」
「お客様のイメージにぴったりなので選ばせていただきました」
「ありがとう」
澄んだ声だ。大きな黒い瞳がまっすぐに久美を見ている。
久美はもじもじしながらも一気に話しかけた。
「あの〜、木野詩織さんですよね。シナリオライターの」
「まあ、私がわかりますか?」
「フアンなんです私。あのドラマは毎週必ず見ています」
「うわ、嬉しいわ」
喫茶「銀河」は賑わっている。暑い夏が去って秋風が吹き始めると温かいコーヒーが飲みたくなるものだ。
ここのコーヒーは美味しい、お客のイメージに合わせてカップを用意してくれると口コミで広がり、かなり有名になった。
しかも、客の一人が自分のブログで「銀河」を紹介してくれたので、ますます人気は高まるばかりだ。
本当にありがたいことだ、とマスターの結城は今日も香り高いコーヒーを淹れながら店内を見渡す。
ウエイトレスの久美は忙しそうに動いている。
窓際の少し離れた席に一組の男女がいる。男はかなり若い。爽やかな雰囲気はまだ学生を思わせる容貌だ。女は――、明らかに年上だ。
30近いかもしれない。きりっとした知的な美人の大人の女だ。さっき注文をとりにいった久美が興奮気味に結城に伝えた。
「あの人、シナリオライターの木野詩織さんよ」
「へえ、そうなんだ。久美ちゃん、よく分かったねえ」
結城はもう一度女性のほうを見た。
「有名ですよ。最近の夜のゴールデンタイムのドラマのシナリオは、たいてい彼女の作品なんです」
久美の声がワクワクとときめいている。思わぬところで出会ったのが嬉しいのだろう。
久美はドラマシナリオに関心があって週に一度都心の教室に通っている。いずれは彼女もライターになりたいのだ。
そんな久美にとって木野詩織の存在は強い憧れの理想の人なのだろう。
「ほう」
結城は木野詩織を見つめた。美しい女だ。
久美は詩織のために、白地に紺のツタの絡まる紋様の入った、格調高いロイヤルコペンハーゲンのカップを選んだ。それはこの店でも特別なカップなのだ。
木野詩織こそ、気品に満ちたロイヤルコペンハーゲンが似合うのだろう。そして、久美が男の方には普通のカップを選ぶのを見て結城は苦笑した。
久美がコーヒーを運ぶと木野詩織が声をあげた。
「まあ、ロイヤルコペンハーゲン!」
「お客様のイメージにぴったりなので選ばせていただきました」
「ありがとう」
澄んだ声だ。大きな黒い瞳がまっすぐに久美を見ている。
久美はもじもじしながらも一気に話しかけた。
「あの〜、木野詩織さんですよね。シナリオライターの」
「まあ、私がわかりますか?」
「フアンなんです私。あのドラマは毎週必ず見ています」
「うわ、嬉しいわ」
作品名:喫茶銀河「憧れの人」 作家名:haruka