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ぬるめのBL作家さんに100のお題

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肩越しの恋






「お前友達多い?」
「・・・悪意を感じるわ」
「新しい恋愛が始まると友達2人失うんだと。オックスフォード大学?かどっかで論文が発表されたらしい」
「ふうん」
「セフレは何人いても別にいいらしい」
「ああそう」
「何お前人の話ちゃんと聞いてんの」

升野は黒いカブトムシみたいな携帯をいじりながらベッドサイドの電気をつけた。
黄色い蛍光灯が顔の半分を照らす。少し青白い升野の顔。

「あ、紺からメール」
「何だって?」
「来週メシるべって」
「まじか」
「行く?」
「抜け駆けは許さん」
「はいはい」

俺らは同じ人間に恋をしている。
同じ人間に恋をしているが同じベッドで寝ている。そういうこともする。
少し距離が近すぎるがいわゆるセフレというやつだ。
升野は俺越しに、俺は升野越しに紺のことを考えてセックスをする。紺というのは俺らの好意のベクトルが向いている相手。お互いのことを愛しているわけじゃなくたってちゃんと行為は成立しているし、今のところこれといって問題もない。
恋のライバルという痒い単語で表される関係にある2人が寝ているということは既になんだか昼メロめいたシナリオ展開な気もするが、最初の頃に持っていたそういう違和感もこんな関係を続けているうちに消えてしまった。
2年。
違和感を消すには十分な時間で、そして、ひとつの恋に決着がつくまでに十分な時間。
俺らはなんだかんだと理由をつけて逃げているだけかもしれない。
紺は俺らの共通の、そしてお互いの数少ない友人でもあるし、この関係を少しだけ楽しんでいる節があったから。どっちかが行動を起こしたらどっちの関係も壊れてしまう。
片思いでいたい、というのとも少し違う。例えば気に入りのアイドルに熱っぽい視線を向ける女子学生のように、自分とは離れた世界の相手に焦がれていたいのだ。
紺は離れた世界の住人ではないし、数少ない友人という点ではかなり身近な人物だ。だけど、やはり、俺たちとは違うというところから見れば離れた世界、ということにもなるのかもしれない。ここまで思考が進むと自分でもわけがわからなくなる。

「高梨」

升野の携帯のサブディスプレイがまた点滅した。

「おい高梨」
「何だよ」
「しねぇの?」
「お前がカブトムシいじってっからだろうが」
「だって紺からメール」
「それはそれでしょうがねぇけど!」

カブトムシ言うな、と携帯を畳む。一度やる気が削がれたらなかなかそういう方向に持っていくのは難しい。事の運びじゃなくて、精神的な問題。

「たまってんの?」
「昨日した」
「は?」
「オックスフォードいわくセフレは何人いてもいいんだろ」
「オックスフォード的にはな」

そりゃオックスフォード的には構わない。
しかしこう、何というのか。俺はこの2年升野としかしてないわけで。外にそういう友達を作るのもいいんだが、初対面から始めなければならないのはいささか面倒くさい。元彼が今フリーだからって調子に乗りやがって・・・しかし抵抗はないのだろうか。昔付き合ってたくせに今は体だけってなぁ。升野はそこんところ考えなさそうだが相手は気にしないんだろうか。
と、俺は些か心配性のきらいがある。会ったこともない友達の友達に。

「俺今発情期だから」
「ふうん」
「どうでもいいみたいな反応すんなよ・・・高梨は多分俺しかいないだろ、こーゆーの」
「いねぇよ」

だから初対面から始めるのは面倒なんだよ。升野なら大学の頃からの同級生だし、いわゆる気心知れた関係とでも言うのか。同じ人間を好きになるまでは計算外だったが。

「お前のカブトムシと紺のメールで完全にやる気失せたわ」
「・・・ああそう、じゃあ今日はやめとくか」
「お前ってさ、紺のどのへんが好きなの」
「顔」

即答だった。

「あのちょっとサドっぽいんだけど草食系ー、みたいな顔がたまんないんだよね。もちろん顔だけが好きなわけじゃねーよ、優しいんだけどたまに鋭いこと言ったり?そういうとこも好き。俺ってMだからさ、さりげなくいじめられたい」

そうして形式のみのHow about you?が返ってくる。

「・・・考えてみるとどこが好きなのやら」

確かに好きだという感情はある。ある、それでもどこが、と聞かれると例えば升野の「顔」のようにあるはずの思い当たる箇所がどうも思い当たらない。
口をぽかんと開けた升野がまた黒いカブトムシを開く。

「んなこと言ってると俺抜け駆けしちゃうよ?」
「やめろよ」

いつもの軽口に過剰に反応した、頭の中のもうひとりの自分がその事実を分かっていた。

「やめろって」
「・・・冗談じゃん」

今日の高梨はいつもにも増しておかしい、とわざとなのか心配そうな目で見つめられた。そうだ。俺はおかしい。横書きの小説のような、ありふれたようで現実味の薄いそんな感情。
言ってしまえば今、俺のベクトルが向いている先はきっと紺だけじゃない。
ここから先は言わない。情が移ったなんて、認めたくない。

「俺は女子高生か・・・」
「なにそれ、きっも」

俺の肩を叩いて笑う升野の唇の横にあるほくろにキスをした。

「・・・やっぱ、する?」
「・・・・・する」

升野が本当に升野に見えていた。後ろに紺が見つからない。
俺は本当に一体何をしているんだろうな!