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しっぽ物語 5.眠りの森の美女

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 搬入されるダンボール箱に横目、受話器に右耳、ファイルを抱えた左腕と反対側の手にはモンブランの万年筆、爪先を動かそうとしないのはア・テストーニの靴を汚したくないからで、それを除けばCの格好など、どちらかと言えば地味な、二流カジノのフロア・マネージャーでしかない。にも関わらず彼がオーナーであるLから大きな信頼を寄せられ、時にはカジノフロア外のことにも首を突っ込むほどの力を有すようになったのは、大人しげな風体からは想像も出来ない意志の強さと、要領のよさを買われてのことだった。彼はいつでも、絡まりあった糸を解きほぐして一本に戻し、巻き取って玉にしてから自らのポケットに入れる。そして色とりどりの毛糸玉を指先で弄びながら、なんともない顔ですぐさま次の糸を辿り始めるのだ。


 以前Lのオフィスを惨憺たる有様に変えたものの、あのメーカーで取り扱っている家具は、クオリティだけを考えると、東部でも群を抜いて良質だった。明日配達される予定だったのはラウンジ用のスツールを23脚と、ついでに無料で押し付けられたオリエンタルな玄関用のマットが一枚。これは既に、古株のウエイトレス長へ与える確約がある。もう後輩をいびらないようにと暗黙の因果を含めて。
「頼むよ。来週まで待ってくれないか」
 五枚目の書類に眼を通し終わり、サインをして待ち受けていた業者に渡す。今日だけで16枚の紙に自分の名前を書いていたが、その全てを、Cは完全に把握していた。昼食の時にでも、スケジュール帳につけておかねばならない。
 この前ピット・ボスに昇格させたばかりの男が慌てて駆け込んでくるのを手で制す。
「ちょっとLさんが迷ってね。いや、納得するさ。ダークブラウンのままでいい」
 コーディネーターと話し合いの結果決めた色は、なかなか洒落ていた。脚の形もいい。予定では、規定に従って書類を提出し、さっさと納品させて、今晩にはむらなく染めた牛革をふんだんに使ったスツールを、第三ラウンジに並べていたはずだった。