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やまと蒼紫
やまと蒼紫
novelistID. 15444
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miscellany

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ヒルネドキの闘い


「眠い……寝る……」
 宣言されるとほぼ同時に、右肩に重みが掛かる。寝息が聞こえてきたのは、それからきっかり五秒後だ。
 ポカポカ陽気の昼下がり。人気のない屋上で、眠りたくなる気持ちは良く解る。飯も食って腹も膨れ、あとは寝るだけと言いたくなるノリも良く解る。
 けれども人の肩を、さも自分の枕か何かの様に扱うのは已めて欲しい。つーかマジ顔近いからっ!!
 バクバクと早鐘を打つ心臓を鎮まれ〜鎮まれ〜と宥めながら、人の気も知らずに眠りやがった相手の横顔を盗み見る。長い睫毛が白い頬に影を落とし、緩く開いた薄桃色の唇は気持ち良さそうな呼吸を繰り返す。
 何でコイツはこんなに綺麗な顔をしてるんでしょう。神サマは本当に不公平だ。
 トクトクトクトク……。
 寒くなってきたこの季節。人の温もりは酷く心地良い。
 トクトクトクトク……。
 柔らかな風に運ばれてきたシャンプーの香りは、俺も使っている銘柄のもの。お揃いってことですか?
 嬉しくなってつい手を伸ばす。起こさないようにそっと……まるで壊れ物にでも触れるみたいに、俺はその髪を梳いた。
「ン……」
「っ!!!?」
 急に奴が洩らした声ともつかぬ吐息。俺はそれを聞くなり、カチンと躰を硬直させた。
 すると追い討ちのように、頬でスリ……と肩に擦り寄って来る。
 ――襲ってもいいですか?
 浮かんだその問い掛けを瞬時に打ち消すと、俺は奴がいる側とは逆の方向に視線を逸らす。これ以上コイツを正視していたらこっちの身が保たない。
 ――もしも。
 もしも俺がお前を邪な目で見ていると知ったら、お前はどんな顔をするのだろう。
 受け入れてはくれないだろうな……と、諦めを含んだ溜め息を吐く。それはやがて空気に混じり、俺の心の隅にだけ残った。

 ポカポカ陽気の昼下がり。俺は独り悶々としながら、今にも暴れ出しそうな俺の中のケダモノと、孤独な闘いを繰り広げていた。

END

作品名:miscellany 作家名:やまと蒼紫