看護師の不思議な体験談 其の十五
「○○さん、失礼します。」
両足が不自由な○○さんの部屋へ行き、体重チェックの説明をする。Yさんと一緒に、ストレッチャーを病室へ入れる。ストレッチャーとは、患者様を移送する時に使用するもので、よく救急車へ運び込む時や手術室や検査室へ移送する時に使用している。
体重チェックの時に使うのは特殊で、ストレッチャーに乗せた時に体重も表示されるようになっていて、便利。
「それでは体を動かしますよ。」
スライダーという器具で、患者様の体をストレッチャーへスライドさせる。
「看護婦さん、すまんねぇ。」
「いえいえ。あ、体重増えてきてますねぇ、良かった。」
そう言うと、○○さんは二カッと笑う。
「ご飯がおいしく食べれるようになったからね。」
なんて、体重チェックしながら、患者様とのコミュニケーションを楽しむ。
部屋から出て、ストレッチャーを見て、Yさんが感心している。
「寝たまま測れるなんて、便利ですねぇ。私、ちょっと乗ってみてもいいですか?」
「え、あ…。」
私の返事を待たず、新人Yさんはひょいっと腰かけ、ごろんとストレッチャーに寝転がる。
(まあ、いいけど…)
「わ、すごい、本当に測れてます。どんなしくみなんですかね。」
「はい、はい。次行くよ。」
苦笑いする私。
「はあい。」
Yさんは楽しそうにストレッチャーを押している。
(伝えたほうがいいのかな…。ま、いつか分かるからいいか。)
私はYさんに言い損ねたことがあったのだけれど、その場は言葉を飲み込んだ。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十五 作家名:柊 恵二