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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

INDEX|75ページ/80ページ|

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 深冬はその光景を見て狼狽えた声を上げた。
「素粒子から分子と原子を作り出してる!?やめなさいミミリ!体に掛かる負担がでかすぎるわ!出来合いの物質を使って事象を起こすならまだしも、アイテール素子から物質を作り出すのには自分自身のエネルギーを対価にしなければならないのよ…!しかも、700メートルもある艦内全域をカバーする量なんて。あなたの体力が保たないわ!」
 ”自身のエネルギーを対価にする”。
 それは即ち、自身の生(`)命(`)力(`)を糧にすると言う事。下手を打てば、命を落とす危険があるという事だった。
 それを知った上でミミリは選択したのだ。
「知っています!それでも…、やらなきゃだめなんです!身を削らずに道が開けるだなんて、甘い事は始めから考えていません!それに、これは私にしか出来ない事ですから。人を守るマジェスターのクセに、迷惑ばかり掛けてきた私ですけど…。こんな自分が、今この一瞬だけでも皆さんの役に立てるなら、こんなに嬉しい事はありません。やっとマジェスターとしての本懐を果たせる気がするんです」
 自らの命を削り、捧げることを。
 深冬はそれを感じ取ったのか。
「ミミリ…。…あなた…死ぬ気!?」
 ミミリはかぶりを振り、穏やかな顔でニコリと微笑み、言った。
「大丈夫ですよ深冬さん」

「だって、私は――」



 いつからか<ラース・カーフ>の本体も、深冬が作り出した液体窒素に包まれ、凍り付き始めていた。
 それでもなお、重厚な体躯を荒ぶらせてヒューケインに襲いかかる<ラース・カーフ>。
 が、欺瞞の力を持つヒューケインには掠りもしない。雄牛の拳は空しく空を切るだけ。
「大人しくしてろよ、このデカブツ!」
 こうなってしまっては、圧倒的な膂力を誇るこの真珠の雄牛も、道を塞ぐだけの巨大な障害物(モノ)でしかない。
『コンプタイム3.75秒。二層目、解析終了しました。送ります!』
「装填、イグニッション!じたばたせず、有り難く食らいやがれ牛野郎ッ!」
 <ラース・カーフ>の拳をかい潜り、裁断剣を傷口に挿入。
 破砕、爆散!砕け飛び散る二層目の装甲。
 <ラース・カーフ>の傷口から、真珠色の欠片が大量に噴き出す。
 傷穴を中心に<ラース・カーフ>の体全体に亀裂が走った。
 バキバキ、パキパキと。
『栞さん!あの牛野郎の装甲はいくつあるんですの!?これ以上あなたを一人で守るのは流石の私でも…、くっ…!この、恰ッ!!』
 十字路の中央で、襲い来る変異体から栞を守って奮戦しているであろうエリカの怒鳴り声が通信端末越しに響いた。
『すいませんエリカさん。この”三層目”で終わりです!皆さん、後もう少しだけ頑張って下さいね!』
 どうやら、エリカは相当”お疲れ”のようだ。
「オーケー!実を言うと、俺も飽き飽きしてた頃だ。てっとり早くフィナーレ(終幕)と行こうぜ!」
 三度目。
 ヒューケインは最後の作業に取りかかる。その手に裁断剣を再び握り――。



 そう。私は。私は――
「私は死にませんから…!」
 力強く言い放ち、ミミリは床に飛び散らかった破片を吹き飛ばした。
 そして、にかーと笑顔を浮かべ言う。
 ただし、――窒素を生成し続けているせいか――ミミリの顔からは生気が失せ、びっしりと脂汗が滲んでいる。明らかに消耗していた。
「これ以上は危険よ!やめなさい!」
 顔を青くし、焦燥を顕わにして言う深冬。それでも、ミミリは笑顔で言うのだ。
「なんとなく分かるんです。”今はその時じゃない”って。…えへへ、なんとなくですけどね」
「ミミリ…、だめよ…そんな」
 深冬の氷の無表情が溶(`)け(`)た(`)。彼女は、今にも泣きそうな――悲壮の表情を浮かべる。
 対してミミリは、底抜けに明るい顔で明るい声で――満面の笑顔で言う。
 それは――
「そんな悲しそうな顔しないで下さい深冬さん。大丈夫ですよ、悪運だけは強いんです私。今まで何度も辛い目にあったり、命を落とし兼ねない危険な目にも遭ってきましたけど、結果としては生き残って来たんです。メテオインパクトの被害にあっても。施設では心が折れる程の過酷な仕打ちを受けても。爆弾事件に巻き込まれても。行き倒れそうになっても。ハイジャックにあっても。宇宙を漂流しても――。だからき(`)っ(`)と(`)。今(`)回(`)だ(`)っ(`)て(`)き(`)っ(`)と(`)大丈夫です!私は死にません。生き残って見せます。皆さんを守る為に、明日の為に。だから、私はここでは終わりません!」
 ――明日(未来)へ向けた希望の言葉だった。明日も、自分は変わらず生き続ける。そう言う確信が込められた言葉だった。
「ミミリ…あなたという子は…本当に…」
 その言葉を聞いてなのか。深冬の目には涙が浮かんでいた。ガーデン808から自分がいなくなったあの日からミミリがどんな目に遭ってきて、その後どんな困難を乗り越えてきたのか…。深冬は、ミミリが誇り高く、矜持ある人間だと言う事を知っていた。その心中にある想いと、崇高さを鑑みた途端に、胸の奥からこみ上げてくる物を感じたのだ。
「というわけで、ちょっと行ってきますね」
 窒素の生成を打ち切り、ミミリはニコリと深冬に微笑み掛け、走り出した。



 熱を帯びた栞の声が通信端末から響く。
『コンプタイム2.98秒!<精錬>完了!!』
「装填!これで赤裸々、真っ裸だ!」
 <ラース・カーフ>に穿たれた裁断剣が光を放つ。
 バキバキと、その躯体にヒビが走り、そして――
 バガァァンッ!
 ――上半身の一部だけを残し、割れたガラス玉のように砕け散った。その破片も深冬の能力によりカチコチに凍り付いてく。
「こいつが本体(コア)か!」
 傷穴を中心に砕けた<ラース・カーフ>の上半身は、斜めに切った野球ボールの断面図さながらの状態になっていた。ボールの中心には、てらてらと光沢を放つ赤黒い球体がある。
 鋭利に尖った破砕面の中央に見えるそれが、特異体<ラース・カーフ>のコア(本体)であった。
 ヒューケインが、裁断剣の柄を手元でくるりと回し逆手に持ち、コアに突き立てようとした。
 その時。
 突如、無残な姿となった<ラース・カーフ>が身を翻し、ヒューケインから逃げるよう通用路の奥へと向かって走り出したのである。
「おぉいっ!てめぇ、往生際が悪いぞ!待ちやがれッ!!」
 その後を追うヒューケイン。
 それを阻もうと、<ラース・カーフ>の脇から犬や猿に似た変異体が飛び出し襲いかかる。それも一体や二体ではない。十体、二十体――いやそれ以上の数で。四方三メートルしかない狭い艦内の通用路を埋め尽くさんとする数で。
 通用路は、あっという間に変異体の群れで埋め尽くされた。
 ヒューケインの能力は一定範囲内にいる者の感覚を欺けるが、この狭い通用路でこうも数任せに、それも隙間いっぱいに来られてはどうしようも無い。