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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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「おい…。ほんとさっきから失敬だよな、お前…」
 じと目で言うヒューケイン。
「ふふ。自分にないものを持っているからよ」
 そう言ってから深冬は「さて、無駄話はここまでにしましょう」と区切った。
「だな。…栞!」
「はい!」
 ヒューケインが『命令』を発する。
「スキャンに専念してくれ。アイツの装甲をEVB兵器(    ウェポン)で破壊して本体を引きずり出す!エリカ嬢は、デコイ兼ナビゲートだ。”敏感な肌”で鋭く感じてくれよ!」
「いわれなくても、もうやっておりますわよ!ていうか、言い方いやらしい!」
 そう言いながらエリカは既に、再生を完了した<ラース・カーフ>へと走っていた。

 エリカが装着している<アクエリアス>には追加装甲がない。腰下の左右フェンダー部分に理論障壁発生器であるスカートが伸びているだけ。その姿はまるで軽業師のようだ。何故こんな軽装かと言えば、自身の『能力』を最大限に活かす為であり―――。
「鬼さん、こちら♪ですわ!」
 地を蹴って宙に飛ぶエリカ。パンパンと手を叩き、<ラース・カーフ>の注意を引いて脇をすり抜ける。背後に落下、着地。そして、感知。知覚!
 <ラース・カーフ>が、宙を舞うエリカの着地際を狙って拳を振り回す。
 その攻撃タイミングは、着地とぴったり重なっている。回避は不可能。が―――!
 感覚を異常強化する『能力』を持つ水仙属のエリカには、”造作もない”ことだった。
 衝撃を吸い取るよう『ぱしり』と拳を受け止め、受け流し、掴み。
 拳を鉄棒に見立て、くるりと一回転。
 エリカの体が再び宙を舞う。体を丸め、くるくると落ちて。
「拆除<解体>(チャイツー)!」 
 気合いを発したエリカの掌から、凛が操る<リソース・パニッシャー>と同様の効果を持つ理論障壁が展開された。
 ばしゃぁと、水が爆ぜる音と共に『解体』される<ラース・カーフ>の拳。
 エリカは、五感。時には第六感を動員し、『能力』で観測と測定を行う。
 その精緻さは、目測でツールに頼らず、遠方の物体と彼我の距離を小数点第二位まで測定できるほど『精確』だ。彼女の体全体が高性能なセンサーの塊であり、皮膚の感触ひとつで空間の”流れ”と違和感を感じ取り、標的の位置を探り当て、動作を感知する。
 他にも、色々と微細な事柄を観測できるのだが――。
 故に、エリカは<ラース・カーフ>の攻撃を予見出来ていたのである。
「恰(ハッ)!」
 着地と同時に、足払い。無論、その足にも理論障壁が展開されている。
 エリカの足払いが<ラース・カーフ>の臑を抉り取る。直後に、水が爆ぜる音が響く。
 臑を『解体』された<ラース・カーフ>の足が、自重を支えきれず”バキリ”と折れ――ズシンと――その巨体を地面に横たわせた。
「ヒューケイン!」

 エリカが呼びかけたときにはもうすでに、ヒューケインは目にも留まらぬ俊足で、<ラース・カーフ>に飛びかかっていた。
 <アクエリアス>大腿部の収納スリットがスライドし、裁断剣が現れる。左右に一本、二本。 それを引き抜き、両手に携えるヒューケイン。
「あいよ!スキャン完了、<弾頭>装填。裁断する!解体ショーをご覧じろってな」
 ざっくばらんに裁断剣を振り乱し、無防備になった<ラース・カーフ>の胴体を切り刻むヒューケイン。
 カンカン、コンコン、パラパラと、装甲の破片が飛び散る。同時に、赤黒い液体も。
「…ッ!?」
 ヒューケインは違和感を感じた。裁てど、裁てども、肝心要の部分が見えてこない。
「ヒューケインさん、あぶないっ!」
 突如、ミミリが叫んだ。
 <ラース・カーフ>の飛び散った装甲の破片が変形し、棘の形状をとっていたからだ。
 無数の棘は、ヒューケインの全方位を取り囲むように展開し、襲いかかってきた。
 <アクエリアス>の理論防壁で無効化できるかどうかは分からない。アクトゥスゥ素子に浸食され変質した物質は、この世界の常識を超常したモノに変異するからだ。その性質が分からない以上、無闇に受けてみせるのは無謀というもの。
 無論。その定石にならい、誰しもが回避行動をとるだろうと思っていた。
 が、ヒューケインはその場に居座ったまま、<ラース・カーフ>に攻撃を加え続けている。
 棘の矢がヒューケインに迫り―――彼の体に突き刺さった。
 ザクザク、ザクザクと。
「あ…そんな…。嘘…」
 悲愴の声を上げるミミリ。彼女の目に、ずたぼろに引き裂かれた黒い<アクエリアス>が床にくずおれ、膝をつく姿が映り――。
「そうそう。”嘘”なのよねぇー」
「え!?」
 ヒューケインがいた。驚きの声を上げるミミリのその横に。
「え…ええっ?ど…どういうことなんですか!?」
「これが、俺の『能力』ってわけさ。感覚を惑わし狂わせる、『欺瞞の力』。皆には、さっきから俺が超スピードで動いている様に見えているんじゃないかな?」
「は、はい…。私にも、確かにそう見えていました」
「催眠術とかに近い理屈で、頭に”そう見えるよう”ジャミング(幻惑)を掛けているのさ。さっきやられたように見えた俺も、ジャミングが作り出した嘘のビジョンってわけ。この世界の生物は、五感と器官を通して情報を取得している。得た情報は脳へと送られ、脳内で電気信号を発生させる。そうして、俺達生物は、事象を観測・認識している。無論、その理屈でいけば」
 ――アクトゥスゥ変異体も、事象を観測・認識するために五感や感覚器官を備えている。
 故に、「彼らの感覚を『欺瞞』することは可能だ。電気信号にジャミングを掛ければな」と――ヒューケインはそう付け加えた。
「それより、どうするんですか?装甲を破れなきゃ、<特異体>倒せないんですよね?」
 ミミリが困り顔で言う。
「まぁ、そうだな。でも、”大体”は”分かったぜ”。栞、スキャンのサマリーは?」
「はい。どうやらあの<特異体>は、攻撃を受けて装甲を破壊される度に体組織の組成を変化させているようです。おまけに装甲内部は積層構造になっていて、層ごとに対応する<弾頭>を複数用意する必要があり、おまけに内部は理論防壁に似たシールドで保護されています」
「やっぱり、ね。装甲を突破して”本体”を破壊するには、再生を食い止め、傷口を固定化する必要があるってことか」
「ちなみに、シュミレートしてみたのですが。装甲の再生速度は私のスキャン完了速度よりわずか0.一五七秒ほど速く、私が次の層のスキャンを完了させる前には、傷口を塞がれてしまいます」
「詰んでるじゃねぇか…。しまったなぁ。分子制御が出来る凛か、電子を操れるツツジがいれば、分子と電子に働きかけて再生を阻害できるんだがよ。ツツジのフォローに凛を同行させたのが裏目にでたか。…さぁて、どうすっかな…」
 そこで、口をつぐむヒューケイン。<ラース・カーフ>が再生を完了させ、重い足音を響かせ、こちらへと向かってきたからだ。
 身構える一同に緊張が走る。
 そこに水を差すように、エリカが鋭敏な感覚で感じたであろう情報を皆に伝えた。
「あー…っと。悪いお知らせですわ」
「なんだい、エリカ嬢?」
「…取り囲まれましたわ…」