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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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「いやぁ…!やめて…!やめてぇぇ――…!」
 叫び懇願するミミリ。が、願いは届かない。
 
ヒューケインと栞は、ずっと向こうで応戦している。
     ―――誰も――助けて――――くれる、人間は――――いない。

(そんな、いやぁー…。やだ、やだよぅこんなの…)
 やはり、自分は無力だ。目の前にいる人、一人すら助けられない。

    ―――自分には―――なにも、だれも―――守れない―――のか。

 バキャン…!
 音がした。
「あ…あ…」
 目を丸く見開くミミリの目に映ったのは――。
  
 ――”それ”の掌から開放され宙を舞う女性士官と。
 ――宙を舞う彼女を、すくい上げる藤色の影と。
 ――艦の隔壁を突き破り現れた巨大な”ヘックス”の板だった。

 五メートルはあろうかというヘックスの先端が、”それ”の脇腹に深々と突き刺さる。
 そして、”それ”ごと横合いにある壁と隔壁を二重三重に突き破り、穴を開けて、奥へ奥へと運び去っていった。
 煙埃が舞う中で、女性士官を抱きかかえて闊歩する、高飛車な少女の声が聞こえた。
「ほほほ、間一髪でしたわね」
 そう高笑いして登場したのは、派手なリボンの髪飾りを頭の左右につけた、藤色髪の少女だった。
 左右の髪飾りからは、それぞれ二本の細長い三つ編みが垂れ下がっており、身に纏う<アクエリアス>は、自身の髪の色を基調に、白と黒のトリコロール色をしている。
 その高飛車な少女の背後に、もう一人。
「当該個体を<特異体(スペシャルケース)>として認定。現在より、<ラ―ス・カ―フ>と命名。以後呼称します」
 氷のように冷えた声だった。
 その声の主が、瓦解した壁の向こうから聞こえてきた。
「あなたは…」
 そこにいたのは、灰褐色のアクエリアスを身に纏う、水色のボブショートヘアの少女。
 かつて、ガーデン808でミミリのル―ムメイトでもあった、”あの少女”。
 ――リミテッドテンNo.7、館葵深冬であった。
「深冬さん!」
「言ったでしょう?”また”会えると」
 ミミリを見て、ふっと、氷の面持ちを緩める深冬。
 再会を懐かしむ間もなく、横合いから”ドスン”と音が響いた。
 ヘックスによって穿たれた穴の暗がりから、<ラ―ス・カ―フ>が身を起こし、こちらへと走り迫ってきた。
 さっきまで埃煙で全容がつかめなかったその姿が顕になる。
 <ラース・カーフ>の姿はまるで、巨大な雄牛のようであった。
 頭には巨大な双角が生え揃い、全身は黒と白のまだら模様に塗り固められている。体毛はない。磨き上げられたパールのようにその表面は”つるつる”だ。
 迎撃の構えを取る深冬の背後に、三枚のヘックスが現れた。
 「<H―EX>展開。収束、拡散。捻じ切り、切り刻め!」
 ヘックスに緑の蛍光線が走り、小さな六角形模様が幾多に作られる。一枚板のヘックスは細かく小さなヘックスに分解され、宙で数珠つなぎになり、”環”となった。
 ヘックスで形成された環は、高速回転を始め、金属の摩擦音を奏でる。
 まるでチェーンソーのように。
 回転するヘックスの環が、<ラース・カーフ>目がけて飛来する。
 接触!
 <ラース・カーフ>の表皮がスパンと切れる。
 切断!切削!
 金属の特有の金切り音を上げることもなく、ヘックスにより<ラース・カーフ>の体が。四肢が。次々に切断されていく。
 環を構成するヘックス一枚一枚が、高密度の分子で形成された高周波刃であり、触れた構造物をいとも容易くバターのように切り刻む。これもEVB兵器(    ウェポン)の一種であった。
 深冬は、<ラース・カーフ>が解体されていく光景を見つつ、
「エリカ。<弾頭>の精錬は?」
 藤色髪の少女、エリカ・シュンシエンに聞いた。透き通った涼しい声で。
 その間に、解体された<ラース・カーフ>の部位の破片が、コンコンとこちらに跳ねて飛んでくる。その破片には、陶磁器のような質感があった。
「あと、二.一五セコンド!もう少しお待ちになって。<弾頭>データ送ります」
 バディであるエリカの返答に、「”遺憾千万”ね」と、深冬は呟き。
「了解(コピー)。0.五六…0.一五…精錬コンプリート。装填。イグニッション!」
 深冬の号令とともに、ヘックスから撃滅効果のある光波が放たれた。共振作用の光を浴びて、解体された<ラース・カーフ>の表面にヒビが走る。
 ピキピキと割れて。…爆ぜ飛び――
 「やりました!?」と、声高にするミミリ。
 ――爆ぜ飛んだのは―――
 「いえ…”だめ”ね」
 歯がみする深冬。
 ―――その、”本体”を覆う装甲の、”表面”だけだった。
「なんで!?」
 驚きの声を上げるミミリの側で、深冬が答える。
「故に<特異体>なのよ。再生を司る本体(コア)を体内に隠し持ち、頑強な装甲を纏うアレを倒すには工夫がいる。通常の変異体のようにEVB兵器(    ウェポン)一本で倒すのは難しいわ」
 深冬が言った側から、はがれ落ちた<ラース・カーフ>の装甲が磁石に引き寄せられるように集まり、表皮にかちゃかちゃと貼られていく。光波を浴びて消失した箇所は、泡立つ様子を見せ再生を始めていた。
「じゃぁ、どうすればいいんですか!?」
「幸いなことに、本体にはビームなどの高出力火器や、化学反応兵器による攻撃が通るの。
問題は、本体を守る装甲をどう引っぺがすかよ」
「その通りですわ。だから、ほら」
 素人はすっこんでなさい。と、今まで抱きかかえていた女性士官をミミリに預けるエリカ。
「わっ」
「プロの戦い方というものを見せてさしあげますわ。えーと…?」
「ミミリ・N・フリージアと言います」
「どうも初めまして、ミミリさん。リミテッドテンNo.5のエリカ・シュンシエンです。そのご婦人は頼みましたわよ」
「あ、あの…!」
 ミミリが返じるよりも早く、エリカは<ラース・カーフ>に向かっていこうとした。
 その時だった。
「よぉ、助けはいるかい?」
 突如、背後から聞こえた声に、三人が振り返る。
「あなた…ッ!」「ヒューケインさん!?」「あら…」
「雑魚を散らし終わって見れば、なんだぁ?酷く面白いことになってるじゃないの」
「あらあら、まぁ。派手なことになってますね」と、後からやってきた栞がのんきに言う。
 そんな二人を見て、深冬はすっと目を閉じ、
「不謹慎ね、リーダー。自律機動カメラが回っているのに」
 そう言って、永らく皆が存在を忘れていたプランタリア新聞部所有のそのカメラを指さす。
 カメラは空中をふわふわと飛び、今も一同を撮影中だ。
「おっと!」
 オフレコにしといてくれよ?と、キザっぽく口元に人差し指を立てて言うヒューケイン。
「”頂門一針”。貸しにしといてあげます。さて、何をおごってもらおうかしら?」
「げっ!本日二回目かよ…。『彼氏』にちょっとひどいんじゃない、深冬さん!?」
「それはそれ、これはこれです」
 深冬の冷えた表情が、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 深冬の”お相手”が、ヒューケインだと知ったミミリが二人の間に割って入り、抗議をとなえた。
「え?『彼氏』って…!深冬さん、あんなチャラ男不謹慎のどこがいいんですか!?」