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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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 凛は、右手に持ったリソ―ス・パニッシャ―で変異体の表面を切り裂き、左手に持ったもう一本を、その内部に深々と突き刺した。して、刹那も経たず。
「イグニッション!」
 『バシィッ』と、電撃がのた打つ音が響く。
 コックピットの中から赤黒い液体があふれ出し、次にジェネレ―タ―の駆動音が静まり、UG―MASは動作を停止した。
「すいません…凛様」
ツツジは床にへたり込んだまま、ハッチに跨がっている凛を覗き込んで言った。
「ためらうな、ツツジ。まだ慣れないようだな」
「はい…。さすがに、目の前で見ると…。凛様は、…迷い、ないですよね」
 凛は、冷然と言い放った。機械的な冷たい声で。
「どうと言うことはない。こんな物は、『作業』だ」
 そう語る凛のたたずまいに『超然』としたものを感じ、
ツツジはごくりと固唾をのんだ。
凛の青い目が、無機質な、冷たい、赤い光を放ったような気がした。
 凛にとって変異体を駆逐する行為は文字通り、『作業』であった。
 ――”凛・A(アキレア)・アルストロメリア”。
 アキレアの花言葉は、『真心を持って・戦い・指導』。アルストロメリアの花言葉は、『未来への憧れ・エキゾチック・機敏・持続・援助・凛々しさ』。
 凛は、二つの属性を兼ね備えた新世代のマジェスターであり、デュアルスキルタイプの第一号だった。近年のミドルネ―ムを持つマジェスターは、おおよそこの例に当てはまる。
 アキレア属の能力は、戦闘行為にまつわる『全て』への特化。
アルストロメリア属の能力は、分子の制御支配。
 凛は、戦闘――特に変異体駆逐に特化したマジェスターである。彼女は、物事を0と1で判断し、確率論で取捨選択を行いデジタルに思考する。その思考回路はまさに『機械』(マシン)そのもの。
 マシン的に思考するが故に、外的要因、内的要因から来る心理状態の変化にパフォ―マンスを左右されることがない。常人ならば生命に関わる状況下でのプレッシャ―や、細心を払わねばならない繊細なオペレ―ションであろうとも、凛は平常を保っていられる。
 例え相手が元、人間であったモノだとしても、凛は躊躇なく剣を振り下ろし葬り去る。そこには一切の迷いも、ためらいもない。
 怜悧・冷徹・合理的に、作戦を確実に遂行・完遂する凛は、こと変異体撃滅に関して、『最強』のマジェスターと目されていた。
 ギギギと、ブリキが鈍く軋むような音が聞こえた。
 停止した筈のUG―MASが再び動き出し、躯体の間接部から黒い触手が生え、一斉に凛へと襲いかかった。触手の先端は、人の掌を模した形状をしている。
「凛様!」
 言うよりも早く、ツツジはすでに動いていた。
 発した脳量子波に感応し、彼女の背後に左右三門づつ、計六門の機動型マルチカノンが現出する。普段それは量子情報として虚数化され、ユニバ―サルネットワ―ク上に格納されているビーム、実弾。あらゆる物質を弾丸として射出するEVB兵器でもある。
 牽引装置により腰の周りを取り巻くように浮遊している追加装甲は、五枚の金属板が横に連なりプリ―ツスカ―トの形状を模している。
 その装甲が放射状に分かれ円周展開し、ツツジを中心に取り巻いて回転を始めた。
 それは粒子加速器で、マルチカノンにエネルギ―を供給・送信する役目をはたす。
 エネルギ―が充填され、カノンの先端に青白い電光が灯った。
 電磁力を用い、構造物を砲身の中で加速させて射出し、目標に物理的損害を与える兵器――いわゆる、レ―ルガン。
 キュボン!
 砲身の中で、音速域にまで加速された構造物。もとい弾丸が発射された。
 レ―ルガンの直撃を受けて、UG―MASの足部が爆ぜ飛ぶ。機械部品で構成されているはずの構造内から、肉を焼いたような臭いが漂い、べちゃべちゃと赤黒い液体がただれ落ちていく。
 凛の眼前に無数の、掌を模した触手が迫る。
 掴み掛かろうとして来る触手をリソ―ス・パニッシャ―を振るい、ことごとく打ち払う凛。彼女には、全てがデジタルに見える。0と1。最善手で、攻撃に対処する。ある程度いなしてから、コックピットハッチを蹴り、床めがけ飛び降りた。
「パイロットとの接触で、素子が伝染していたか!」
 着地と同時に疾走。
「スキャン完了、バニッシュ<撃滅>する!」
足を失い床に倒れ込もうとしているUG―MASの背中へと回り、リソース・パニッシャーを振り下ろす。断裁。そして、解体!
 量子の位相状態を0に書き換えられ、UG―MASの躯体が、頭部から胴体部にかけて真っ二つに裂かれた。断裂面から黒い液体がぶちまけられ、白い床を黒く染め上げる。
 UG―MASは、真っ二つになった胴体を繋ぐため、両断面から黒い粘液をあみだ状に巡らせて再生を開始。組織の分子が結合していく。
「再生する気か。させん!」 
凛の瞳孔が、赤い光を放つ。とたんに、変異体化したUG―MASの再生が止まった。
 アキレア属でもある凛の能力――分子制御の力に因るものだった。
 凛の能力により、分子の結合運動を阻害され、再生ままならない変異体UG―MASは
真っ二つになった胴体を蛇のようにくねらせ、床をのたうち回っている。
そこには最早、マシンだったころの面影はない。異形の怪物である。
「ったく、手間かけさせないでよね!」
 苛立ちを交えながら、マルチカノンを操作するツツジ。
 撃滅効果を持つ光波が、金属と有機の結合物と化したUG―MASに向かって撃ち放たれる。その直撃を受けて、UG―MASは爆ぜ飛び光の粒子と化した。
「ふぅ…」「終わったか…」
 二人が、一息ついたのもつかの間。
 …ガシャン…!ガシュ、ガシュン! 
 四方から、金属の床を踏みならす大質量の音が聞こえてきた。
 二人を取り囲むように、”それら”はにじりよってくる。その数、総計八――
 ――いや、増えた。総勢、十二機!その装甲の隙間からは、無数の黒い触手が生えており、獲物を求めてうねうねと踊り狂っている。
「ふっ…、『楽しく』なってきたな」
「凛様ぁ―…」
 状況に迫られ、思わず情けない声を上げるツツジ。
「安ずるな、ツツジ。”私がいる”」 
 凛の力強いその一言を聞いて、ツツジは弱気を打ち払う。
「うぅ…。はい!…ったく、やったろうじゃないの!」
「…さぁ、往こう。『作業』を、始めようじゃないか」

 ハンガ―エリアに安置されていた全てのUG―MASが、人型のシルエットを顕わにし、獲物に狙いを定めたかのように、頭部のゴ―グルアイを仄暗く、赤く灯らせた。
 二人は、武装を展開し身構え、跳躍。変異体に向かい、火線を迸らせ――…。

 彼女たちは、知らなかった。
 先ほどの黒い液体が、ずぶずぶと、ゆっくりと…。
 床の隙間に沈み込んでいったのを。