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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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(なにこの空気…。訳分かんないんだけど)
 やっぱりツツジはわかっていなかった。
「恐れ入ります。あら、噂をすれば…」
 屋敷のテラス窓の向こうから、こちらへと向かってくる黒い外套をまとった老人の姿が見え隠れした。
「まずい…ほんとに来た!じゃぁね、ミミリ。今晩、食事の時にでも、ゆっくり話をしよう」
 バイバイと手を振って、ユリウスは一目散に走りだす。
「はい、いってらっしゃいませ。叔父様」
 ミミリは、泡を食った様子で屋敷の外へと駆けて行く叔父の後ろ姿を見送った。
 あのユリウスを、こんなにも取り乱させるほどの<ご隠居>とはいったいどれ程の怪人物なのであろうか。
「おや、ユリウス坊の声がしたと思ったのだが。気のせいだったか?君たち、なにか知らないかね?」
 ユリウスが姿を消したのとちょうど入れ替わりで、先程の外套の老人。I―tex・グループ前会長、カエサル・ダンデライオンがプ―ルサイドに顔を出した。
 彼が全身から放つ空気は、覇気そのもので、年老いた壮年の男性とは思えないほど力強い豪胆な気を発している。
 一同は、そうしたカエサルの存在感に圧倒され、ひれ伏すように萎縮してしまった。
 『無礼を働けば首を跳ね飛ばされる』――そうした畏怖を感じたからだ。
 訝しむ様子のカエサルを前に、一同は苦笑いを返すしかなかった。
 そこに、凛が沈黙を破るように、背筋をピンと伸ばして堂々と前に出てきて言った。
自らの名前のとおり”凛”とした張りのある声で。
「いいえ、カエサル翁。学園長は、先ほどまでここで油を売っていましたが、先ほど慌てて理事会会議に向かわれました」
「なん…じゃと?」
 老人の眼光が鋭い光を放った。
(あわわ…)
(ちょっと、何言っちゃってんの――。お姉ちゃん!)
(凛様、マジで!空気読んでくださいよ)
(あらまぁ、たいへん)
 凛の発言に、一同は思い思いに、驚きを顕にしたが(栞を除いて)すぐに真顔を被った。
「坊め、余暇のない程スケジュ―ルを詰め込んで、それを曲げて時間を作るくらいなら、プランをするなと言っているのに。まだ、社長時代の悪い癖が抜けきっていないようだな。
あとで再教育してくれる。栞、凛。すまんが坊にそう事伝えてもらえるかのう」
「はい。カエサル様」
「はっ、畏まりました。それとカエサル翁、最近の学園長には少々問題が見受けられます」
「ほう。なんじゃ、言ってみなさい」
 カエサルの発する気が更に威圧感を増した。重厚なテナ―の声がその威圧感をさらに増大させている。さすがの凛も、少々たじろぐ様子を見せた。
「はい。あのう…その…」
「どうしたのだ凛。申してみなさい」
 カエサルに催促され、凛はなにやら言いにくそうにもじもじと、前に組んだ手をくしゃくしゃさせる仕草を見せた。もごもごと、少々躊躇うように口を開き、
「いえ、その少々…はばかられることで…失礼になるのではと…」
 顔を紅潮させる凛。堅い性格の彼女がああなるとは、よほど言いづらいことなのだろうか。
「構わんよ。生徒からの意見は貴重な改善の提案だ。いつまでも現状が続くことなどあり
得ない。時代に合わせて我々は変化して行かなければならない。君たちの意見は、プラン
タリアと、その運営を任されたユリウスのためにもなる」
「わかりました」
 凛は心を決め、顔を赤らめながらも直立不動の姿勢で、声を張り上げた。
「では申し上げますっ!」
 こころなしか、声が裏返っていた。
「女子生徒に水着を着せてハ―レムのように側に侍らすのはいかがなものでしょうか!」
「なにぃぃっ!?」
「「「「ブフゥ―――!」」」」
 凛の、あまりにもぶっちゃけた発言に、一同は思い切り吹き出した。
(やはり、栞を除いて)
「り…凛よ。それは…ほ…本当なのか…」
 カエサルは、その場にくずおれプルプルと声を震わせて言った。
「はい、残念ながら。学園長にはそう言った『アレ』な趣味があるようで」
 間違ったことは言っていない。”概ね事実だ”。
「ア…『アレ』とは、一体なんなのかな…?」
 腰砕けになって尋ねるカエサル。
「英雄色を好むとは良く言ったものです。一見人畜無害そうに見える学園長ですが、その
裏では相当せいを出して、”励んでいる”に違いありません」
 後を続ける凛は、自身の体を両手で抱きよせて、ガクガクと打ち震え、何かに怯えている様子を見せた。
「特に、私と金雀枝を見る目は、明らかに性的興味を抱く”男の目”をしていました。特に私の肢体を舐め回すように見る目などは…。ああ、思い出すのも恐ろしい!」
(おいおい、自意識過剰すぎるでしょう…)
 目で、そうツッコむヒューケイン。
「あれは間違いなく、女性を手篭めにせんとする狼の目。いつ溜まりに溜まったリビドー
を純真な女子生徒に向けるやもしれません。なんと、不潔で破廉恥なことでしょう。それに、『眠っている十四歳の少女を水着に着せ替えることに異様な性的興奮を覚える特殊で変態的な性癖』を持ち合わせているという噂が立っていると聞きます。ううっ、想像しただけでも、なんと恐ろしいッ!!」
 手元を口で押え、涙声で嗚咽を漏らす凛。もちろん、演技である。というか、さらりととんでもないことを公然とバラしていた。
 数時間後には、ウィキペディアのユリウス・ダンデライオンの人物評に、『プライベ―トでは優しく柔和な人物ではあるが、眠っている十四歳の少女を水着に着せ替えることに(以下略)という特殊で変態的な性癖の持ち主でもある』というコメントと注釈が追加されていることだろう。
「あ…あ…」
ガラガラと、カエサルの中で何かが崩れ落ちているのが見て取れた。
 それでも凛は、熱に取り憑かれた様子で一気に最後までまくし立てた。
「おまけに、『プ―ルサイドに水着美女を集めてパ―ティ―開いて酒池肉林だヒャ☆ホ―イ』と妄想じみた願望を生徒や私たち秘書官の前でも憚らずおっしゃる始末ッ!明らかなパワハラを兼ねたセクハラです。職権乱用です!!清廉潔癖であるべきプランタリア学園長の役職にあるまじきモラルの欠如!いかがしましょうかッ、カエサル翁ッ!?」
 凛のあまりにも大仰で誇大妄想が多分に含まれたトンデモ報告の内容に一同は唖然として口をパクパクさせている。
 カエサルはショックからようやく立ち直ると、全身を怒りにわななかせた。
「あの坊に、そんな裏の面があったとは…。それを見抜けぬとは、このカエサル・ダンデライオン。く…く…一生の不覚…ッ!」
(…叔父様。貴方のいない所でお祖父様の叔父様に対する株価が大暴落してますよ…)
 ミミリが思う通り、本人はそんなことなど露知らずである。今頃、会議室で理事会の面々と小難しい議論を交わしているのだろう。
 その後、自身に降り掛かる災難など、知る由もなく。
「むぅぅ、あやつめ。…説教どころではすまさん。打擲の罰を加えた上で、<地獄のお遍路・インザ・フロム・セルシウス銀河三大恒星三つ巡り>に出仕させてくれるわぁ――――!!」
 カエサルの目には怒りの炎が煌々と宿っていた。間違いなく、本気でやるという目だった。地獄のお遍路(以下略)が、どれほど恐ろしいモノかは知らないが、文字通り地獄のような苦行を強いられるのだろう。