マジェスティック・ガールEp:1 まとめ
深冬は手にしたアサルトデバイスを、無意識にぎゅっと握りしめていた。
「”震えてますの”?深冬さん」
深冬はしまったと思った。エリカには、どうやら”感づかれた”様だ。
感覚と認識に優れ、観測と知覚に秀でた『能力』を持つ水仙属であるエリカは、体の僅かな変化から心の機微さえ読み取れる。そんなエリカには、深冬が今、どんな心理状態であるのか手に取る様に理解できる。
マジェスターは草花の品種名を、属性識別コ―ドとしてファミリーネームに冠しており、品種ごとにそれぞれ先鋭的に特化した能力が備わっている。
そこを行くと舘葵属の深冬は、液体を組成・分解・操作する力に特化したマジェスターだった。
「わかるんですか、エリカ。さすがに”敏感”ですね。ええ…そうね。分かっていても…、やはりなれないものだわ」
何を迷うことがあろう――躊躇せず、容赦なく、『撃滅』あるのみ。
無慈悲に、冷酷、冷徹に。何を遠慮することがあるのか、相手はただの”モノ”なのだ。
アクトゥスゥ素子に汚染され、異形へと変質した物質は、この世為らざる『異質』へと変化する。そうなれば、もはやそれはこの世のものではない。
ただの”異物”、”異形”。
ただの” モ ノ ” 。
明確な意思を持って我々に襲いかかる敵だ。この宇宙に生きる全ての生命に取り、排除すべき驚異と化す。元となった物が、石くれであれ、機械であれ、動物であれ。
例え、それがかつて――
―思考―
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―ノイズ―
不快・不愉快――思考中断。
…であったものだとしても…。――一切の例外なく、撃滅の対象となる。
二人の目に映る標的こと、アクトゥスゥ変異体は、元となった物がなんなのか判らないほど、理解不能な形状をしていた。有機的な部位もあれば、機械的で無機質な部位も併せ持つ、有機と無機の混合体。
一言で言えば、そう―――”グロテスク”。
ただしその外観は、能面のように無垢でまっさらな質感があり、加えて思慮の読めない得体の知れなさがあった。それがより一層の不気味を感じさせる。
深冬は静かに大きく息を吸い――『気』を落ち着かせ――吐いた。
「EVB兵器(ウェポン)を展開します。エリカ、弾頭(ガラスの剣)の仕上がりは?」
「スキャン開始から三十セコンド。<精錬>終りましたわ。データ転送します」
「受領完了。カ―トリッジ形成、装填」
深冬の背後に、六枚のヘックスを繋ぎあわせた扇型の構造体が左右に現出した。
ヘックス一枚ごとのスケールは、身長163cmの深冬より頭一つ大きい位だ。
―――物質には固有振動数が設定されている。
物質は、固有振動数が同じ周波数の音を浴びると分子が共鳴現象を起こし結合崩壊を起こす。それに近い理屈と原理を用いて、対象を分子レベルに解体し、原子核を破壊。素粒子レベルにまで還元して消滅させる――それが、対アクトゥスゥ変異体撃滅の為に用立てられた、EVB兵器(ウェポン)=<共振消滅破砕兵器>と呼ばれる兵装が有する性能だった。
アクトゥスゥに憑依・侵食汚染された物質は、この宇宙には存在しない全く未知の『モノ』に組成変化を遂げる。時に炭素結晶体(ダイヤモンド)以上の硬度を有したり、あるいは熱核兵器の直撃を受けても蒸発せず、残った体の一部から直ぐ様体組織を復元する再生能力を持つようにもなる。
そうした特性を持つアクトゥスゥ変異体を倒すに当たって、EVB兵器( ウェポン)の使用は最もインスタントかつ、シンプルでベストな方法だと言える。
六枚のヘックスはそれぞれ花の花弁のような形を取り、ヘックスの中心にスピーカーの様なものが現出し、ある種の発射装置と化した。
連なったヘックスの全容は、開いた蓮の花を連想させる。
「<H―EX>Gモード、スタンバイ、コンプ。…リリース。イグニッション」
ヘックスの中心に備えられたスピーカー状の発射口が開き、光の線――正しくは線状の『波』が発射された。続いてヘックスが『波』の後を追う。
『波』とヘックスは、宇宙の暗闇を引き裂いて突き進んだ。
光速度で直進するヘックスの運動エネルギーによって、電気分解された宇宙塵がイオンと化す。ヘックスが通った跡をスパークが弾けてなぞる。
光が発射されてから、1.56秒後。
はるか遠方の宇宙の空で、光芒が煌いて瞬くのが二人の目に映った。
作品名:マジェスティック・ガールEp:1 まとめ 作家名:ミムロ コトナリ