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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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一章:色んなことに『さようなら』『はじめまして』―Awaking―



<1.>

 宇宙に瞬く流星。
 一つ、二つ、三つ…十…総計十二。
 厳密には、それは流星ではなく人だった。
 彼らには、生まれながらに使命があった。
 人の叡智と科学によって造られた、花の名を戴き冠する彼・彼女達の使命。
 それは、宇宙の深淵から這い出てきた”異物”。ActS―Uw<アクトゥスゥ>を撃滅し、人類を初めとする生命の生態系を守り、保全すること。
 その用途のためだけに造られた存在。
 <マジェスター>。
 自由を限定された短い生涯を、使命の為に捧げ燃やし尽くす。自らを犠牲にし人類を守る人造の超人<英雄>。
 まさに彼らは偉大なる高貴な者<マジェスター>と呼ばれるに相応しかった。

 ――GUC(銀河団星間連邦歴)1055年。
 神の世紀(西暦時代)が、遙か太古の古典と化した現代。その時代の詳細は、ネットのデ―タベ―スと、教科書のわずかな数ペ―ジ。それに歴史の専門書を通してしか、もはや窺い知ることは出来ない。
 今や人類の科学力は尽くを可能にし、世界の理と概念を全て解明せんとする一歩手前の領域にまで踏み込んでいた。
 それこそ『神の領域』にまで、あとほんの少しで…―――。

 対アクトゥスゥ撃滅攻撃用バトルスーツ<AQUA―ARIU―S(アクエリアス)>に身を包んだマジェスター達の一団。その一団から先だって進む、二人の少女が宇宙空間を舞う姿があった。
 <アクエリアス>の装甲表面を走査する翠色の蛍光線が明滅を繰り返し、それが残滓となって黒い宇宙に碧の軌跡を描く。
 二人の腰の後ろでは、ピンポン玉大の球体と、その球体から五センチの間隔を置いて、一メートル長の平たいプレ―トが淡い蛍光を放ち、宙に浮かんでいる。球体は牽引装置であり、そこから放つ重力子ビームで、プレートと<アクエリアス>を繋ぐ役目を担う。平たいプレートは、空間の定義関数値を書き換えながら推力を生む、理論推進器の役割を果たしていた。
 今となっては遙か後方の彼方に映る光点と化した中隊長から通信が入る。
『S(シ―ド)101より、S601、602へ。先行してスカウトにあたれ。ガ―ベラ8は発見しだい撃滅(バニッシュ)せよ。ただし、近接戦闘は禁じる。それ以外の手段を用いて撃滅せよ』
 応じる一人は、高飛車な態度で、
「601任務(オ―ダ―)了解」
 応じる一人は、氷のように冷たい声色で、
「602任務了解」
『枯れるなよ、プランタリア<人工の庭園>で芽吹いたばかりの種子<ベビ―>たち。ようやく”耐用年数”の折り返し地点を迎えたのだからな。まだまだ、先は長いぞ。では、健闘を祈る。交信終了<コンタクトオ―バ―>』
 中隊長からの通信が終わるやいなや、コ―ルサインS601――頭の左右に結い上げた二本の細長い三つ編みを、ごてごてとリボンのついた髪留めで飾った藤色髪の少女――エリカ・シュンシエンが不満げにぼやいた。
「全く、私たちを稚花<ベビ―>扱いだなんて。失礼しますわね」
「不敬ですよ、エリカ。<プランタリア>では精鋭の私たちも<ミストルティン>では
新兵同然。実働隊に勤めている彼らのほうが、経験も技量も、私たちよりもずっと上なのですから」
 エリカをたしなめるように、S602――水色髪のボブショ―トヘアの少女は言った。
「っ…それはそのとおりですけどね。…チルドで湿っぽい反応ですこと。
舘葵『深冬』ねぇ…名前は体を表すとはよく言ったものですわ」
 『ふん』と、鼻を鳴らすエリカ。

 ――太陽系を超え、銀河を超え、銀河群を超え、銀河団を超え。
 ついぞ五百年前まで人類は、超銀河団どうしを隔てる宇宙の大構造――
 ”グレ―トウォ―ル”――の入り口にまで到達したというのに、三百年前、『彼ら』の現出を皮切りに、そこから引き返さざるを得なくなった。
 人類は、『彼ら』から逃げるようにして、広がる宇宙を進み、その行く先々で星々を開拓しながら営みを続けていた。

 <アクエリアス>からスラスタ―の光を撒き散らし、小惑星に着床した二人は、太陽光の当たらない陰から身を匍わせて、遥か遠方の宇宙空間を伺った。
 エリカは、小惑星の地表に腰を掛けて言う。
「十七年振りの『大攻勢』という話ですわね」
「そうね。間の悪い時分に当たってしまったと思っているの?」
「いいえ、全くその逆ですわ。マジェスターとしての存在意義(レーゾンデートル)を如何んなく果たせる。又と無い機会だと考えています」
「なるほど。あなたに取ってはそうなのでしょうね」
 経済界の一角を担う大華僑の頭目であり、連邦評議会議長でもあるツァオ上院議員の養女である『令嬢』――エリカ・”ツァオ”・シュンシエン――としては。世に一族の名と力を啓蒙するまたとない活躍の舞台であろう。今回の『大攻勢』は――と、深冬は思う。そして、個人的にはこうも思う。
(だけど…私に取っては…、これが最後の――…)
 ――無駄が無いとはこういうことを言うのだろう。
 彼女たちが身に纏う<アクエリアス>は、ごてごてとした余計な物が一切無く、円と鋭角な線の混成で構成されている。アクトゥスゥ撃滅という一つの事に特化したマジェスターに相応しく、実にシンプルでインダストリアルなデザインと言えよう。その意匠は、機動兵器のパイロットス―ツの様にも見える。
 <アクエリアス>は、GUC連邦軍に広く配備されている十二メートル大の統合汎用機動兵器<UG―MAS(ユーグマス)>の性能を人間サイズにまで凝縮、再現している。身体能力の乗算強化、自律飛行、パワ―ブ―ストなどの基幹性能に加え、ス―ツ自体が周囲の粒子を取り込み、駆動エネルギ―を生産するジェネレーターの役目も果たす。加えて、その構造内には、物質を汚染し支配・侵食する特性を持つアクトゥスゥを跳ね除ける抗体を、逐一生産する機能も備えられている。
 『場所を選ばずアクトゥスゥ変異体を駆逐するには、図体のでかい機動兵器よりも、人間に強力な兵装を装備させて運用させた方がずっと汎用的で融通が利く』――と言うのが、<アクエリアス>の存在理由であった。
 <アクエリアス>の装甲表面を走査するエネルギ―と、アクトゥスゥ抗体溶液が発する翠の光。さながら彼女たちは、光の鎧を纏う戦女神(ヴァルキュリア)と言えた。
 エリカが瞬きすると、目元に片眼鏡型の望遠視ツールがすぅと、音も立てず、元からそこにあったかのように現出した。
 ただし彼女は、目に頼らず。『肌(`)で(`)敵を感(`)じ(`)た(`)』。
「深冬さん。正面、十三時方向に標的八。距離125000(ワンツーファイブオースリー)。ガーベラ8編隊は密集隊形をとりつつ巡航中。狙いどきですわね」
 エリカは肌で”感じた”情報と、望遠視ツ―ルのグラス上に表示された標的の位置情報を、バディである舘(たち)葵(あおい)深(み)冬(ふゆ)に伝える。
「了解(コピー)」と、返答する深冬。
 確認した敵性体は歩哨に過ぎず、少数でこちらの窮状を探りにきたのだと思われる。
向こうはこちらの存在を知覚していない様子。わざわざこれ以上接近して、こちらの存在を明かす必要はない。遠方からスナイプし、一撃のもと葬ってやればいい。
 それで”めでたし”だ。