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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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2.



         ††††††††††

 親愛なるタンポポおじさんこと、ユリウス叔父様へ。
 ガ―デン808に来て、一月が経ちました。厳しい訓練と授業の日々ですが、私は元気です。
 覚えることも多くて、皆さんに迷惑かけてばかりですが・・・。
 叔父様はいかがお過ごしなのでしょうか。
 そう言えば、叔父様が何をなさっている方なのかまだお聞きしておりませんでした。
 叔父様のこと、聞かせて頂けるとと嬉しいです。
  あと、お友達が出来ました。
 ナズナ・Z・スイートピーさん。私より一つ上の女の子です。
 お姉さんのように頼りがいのある人で、とても優しい方なんですよ。
 あまり、甘えっぱなしという訳にもいかなので、私もしっかりしなくてはと思っています。
 それに気の強い所なんて、幼馴染のツツジ・C・ロードデンドロンとまるっきり同じで。
 あ、ツツジは私と同じXY型遺伝子を持つ同位体の双子なんです。
 誕生日的には、彼女の方が私よりお姉さんということになります。
 彼女とは毎日メ―ルフォンで連絡をとり合っています。
 距離的には離れ離れですけど、おかげで寂しい思いはしていません。

 少々味気ないかとも思いますが、今回は近況報告と言う事でここで筆を起きます。
 では、失礼いたします。

                 ミミリ・N・フリージア

        †††††††††††

 手紙を書き終わり、ミミリは電子端末のキーボードを叩くのをやめた。紙媒体の手紙も未だに使われてはいるのだが、大体はユニコン(この時代でのパソコンに相当する家庭用コンピュータ)などで作成した文書を紙に印字して作成するのが主流となっている。
 本当は、ペンを使って紙に書きたかったのだが、経費削減の名目で紙や文房具の一部は支給の対象外だった。
 少数精鋭であるマジェスターの育成にはとかく金が掛かる。国家を挙げての一大事業なのだ。教育、装備、衣食住。そららに従事する人々に支払われる人件費。何から何まで国家負担。マジェスターは、国民の血税によって養われていると言っても過言ではない。
 省くべき無駄は徹底して省き、節制するというのが、マジェスターを預かる政府と安全保障省の方針であった。だからこそ十三歳まで里親の元に預け、国民の一部家庭に養育費の負担をしてもらっているのだという。
「いけない。もう、こんな時間だ。早く寝なきゃ」
 時計を見ると、消灯時間である22時まであと五分ほどしかない。
 部屋は六人一組の相部屋になっている。
 他のル―ムメイトは、もう就寝の準備を終えていた。
「ミミリ、早く寝なさい。明日も早いのですから」
 冷たい声だった。
 この部屋を取り仕切る班長を任された六期生の女子生徒には、氷のように冷たい怜悧さと、有無を言わさぬ強制力で人を従わせる剛胆さがある。
「あ、はい。すいません、班長。ただいま寝ます」
 班長に促され、と言うよりもその言葉にひんやりとした畏怖を感じ、ミミリは手早く寝巻きに着替えて寝支度を整えた。着替え終わると、そそくさと部屋に三つ備えられた二段ベッドの一つに潜り込んだ。

 皆が寝静まったあと。部屋の扉をゆっくりと開ける音が聞こえてきた。
ギィ、ギ・・・ギィ。古木が軋むような音が、扉のたわんだ蝶番から響く。
空いた扉の間から、廊下の照明の光が僅かに差し込んだ。
 足音が聞こえた。絨毯をこする、さし忍ぶような足音。
ミミリは、それに気づきふと目が覚めた。
 二歩三歩・・・六歩・・・十二歩。…足音が止まった。
ミミリが寝ている二段ベッドの傍で。
(…え?)
 毛布をずり動かす、衣擦れの音がした。 
と、同時に息を押し殺すような、女の子の声。続いて、成人男性と思しき息遣いも。
 誰だかは分からなかったが、確かにミミリの耳には届いていた。
 再び、衣擦れの音。つづいて―――。
ギィ、ギ・・・ギィ。
 古木が軋むような音が、二段ベッドの下から聞こえてきた。ベッドは規則正しく小刻みに揺れて、軋み声を上げている。確か、ベッドの下に寝ているのは、この部屋の…。
 (班長…!?…え、それじゃぁ…)
 寒気が背筋を伝う。
 ベッドの揺れと軋む音は、次第に早まって行った。

 ギィ、ギィ・・・ギィ。
 ギィ、ギィ、ギギィ…。
 ギッ、ギッ…ギッ!ギッ!ギッ!

 ミミリはぞっとした。  
全身に鳥肌が立ち、心臓をぐわしと締め付けられるような恐怖が体を蝕んだ。 

 次第に荒くなっていく――男性の息遣い。
 班長の女の子とおぼしき――声を噛み殺す呻き声。
 
なにが行われているかは分からないが、何か良からぬ行為がベッドの下で行われているのだけは分かった。
 声をあげるべきだろうか。止めるべきなのだろうか。だが、ミミリにはなにも出来なかった。毛布の中で体を丸め、目を食いしばり、耳を塞ぎ、終わりの時が来るのをただ待つことしか出来なかった。恐怖に支配され、心を拘束され、口を震わす勇気がでなかったのだ。
 
 叔父が言ったとおり、やはりこの場所は”ロクでもなかった”。