邪剣伝説
「こ、これはッ…………」
「それは正式な上からの命令だ。十分に体力が回復し次第、任務に就く。依存は無いね?」
「了解…………しました」
口が鉛が押し込まれた様に重く、それでもレアルは返事をした。
――――アズハス、リィン、レアル三名には、反逆者コクエモミジの『討伐任務』を命ずる。反逆者の生死を問わずに、奪われた始原の理器《七剣八刀》を奪還されたし。
(私に…………モミジが殺せるのか?)
「へっくしょい」
フィアースの外壁から遠く離れた地点を進むモミジ。特に風が吹いた訳でもないのに盛大なクシャミが飛び出た。
「うい、誰かが噂でもしてんのかな」
鼻を啜りつつ、モミジは薄らんで来た防壁都市の外観を振り返った。
眼前に広がるは、広大な平原。その光景は、どんな人工物よりも美しく壮大だった。
「……ま、この光景を真っ白にしなかっただけでも、今回の行動は報われたかな」
命が芽吹く広い大地。そして命とは可能性の塊だ。なんにでもなれるし、どこにだっていける。時にはぶつかり合い、壊し合うかもしれない。けれども、それでも命とは、可能性とは尊く美しい。
「――――待ってろよ、セツナ」
天を仰ぎ、名を呼ぶ。
かつて、世界の誰よりも愛した女の名だ。
「俺は絶対にお前の元まで行くぞ。そして、今度こそ全てを終わらせてやる。俺の信念、正義の全身全霊を賭けて、お前を――――」
一つ、拍を置く。迷いを抱き、後悔を抱き、『それでも』と胸に刻み込み。
誰かに強制されるわけでもなく、何かの成り行きで行うわけでもない。彼しかできない、からでもない。そんな軽々しい、運命論者の戯言に、汚されてなるものか。
譲れないし譲らない。
「――――お前を今度こそ…………殺す」
自分の意思で選びとり、心に決めた信念を貫く。