看護師の不思議な体験談 其の十四
「これから先のことを心配したり、今回の原因を考えることは後回しです。今は、ちゃんと、この子を見てあげてください。18週間、一緒に生きてきた、Bさんと旦那さんとの、大事な赤ちゃんです。」
「……」
「この子は明日には火葬されます。週数も少ないので、骨も残りません。この子が18週間生きていたという証拠はなくなっちゃうんです。」
「……」
「明日までの短い時間、できるだけ、この子のためだけに時間を使って下さい。先の事の心配や、これまでの事を後悔することに時間を使うより…、今はこの赤ちゃんのために。」
私はそっと、胎児の頭をなでた。髪の毛はなく、ふにゃっとした感触。
思わず目頭が熱くなる。
Bさんは、じっと箱の中を見つめた。
勇気を出して、Bさんは恐る恐る、胎児の頬をつつく。
「鼻はお父さんに似てるかも…。」
旦那さんも、そう言われ、ゆっくりと箱の中を覗き込む。
「…男前だな。」
Bさんと旦那さんは、目を合わせて泣きながら笑顔を作った。
そこには、白い棺をしっかりと抱き、児と真正面から向き合うBさんの姿があった。
できることならば、みんな元気に、祝福されながら、この世に産まれてきてほしい。でも、そうはいかない。『運命なんだ』と言われたら、言い返す言葉はないのだけれど、納得はできない。
けれども、どうしようもない現実。今すべきことは、目の前にある現実から目をそらさないことだ。逃げてしまいたいけれど、まずは受け止めることが、これからの一歩になるのだと信じて。そして、その支援ができるよう、これからも医療者として寄り添いたい…。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十四 作家名:柊 恵二