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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(1~5節まで)

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 「ライフルが玉詰まり(ジャム)を起こしたのですが、
ご指導をしてもらっても宜しいでしょうか」
 「ナズナ・Z(ジニア)・スイートピー五期生。
その前、座学で教えたはずだが」
サイガは死んだ魚のような目で、ナズナと呼んだ少女を下から仰ぎみた。
 「はっ、申し訳ありません。もう一度ご指導をお願い致します」
そう言われては、サイガも立場上断るわけにはいかなかった。
体面としては公明正大な教官を演じなければいけないからだ。
このガーデン808に隠された事実を明るみに出さないよう、
偽装(カバー)するために。
 「分かった。向こうの整備ブースで説明しよう、きたまえ」
サイガはミミリの身体から手を離して立ち上がり、ナズナを後ろに
連れ立って歩き出した。
二人は、射撃訓練ブースの横合いにある整備ブースへと向かって行った。
 二人の後ろ姿を、ミミリは立膝をついたまま見つめていると、 
ナズナと呼ばれた少女が振り返り、茶目っ気のあるウィンクをして見せた。
そして、唇を動かし。
 (大丈夫?)
彼女の口元がそう言葉を象った。
 ミミリは、慌てた様子で『あ』と口を開き、
(あ、ありがとうございます)
小さく会釈を返し、ナズナの勇気ある行いに感謝を現した。

* * *
 
 「となり、いいかな?」
その日の晩、食堂でミミリに話しかけてきたのは、昼間、
自分を助けてくれたあの少女だった。
 「あ、どうぞ。あの時はありがとうございました。
えーと…たしかナズナ…さん、でしたよね?」
 右に分けて揃えた前髪をさっと掻き撫でて、ナズナは隣の席に腰掛けた。
 「そう。五期生のナズナ・Z・スイートピーよ。よろしく。えーと…」
「あ、すいません。はじめまして、ミミリ・N・フリージアです。
四期生待遇で先週ここに来ました」
自己紹介をして、二人は互いに握手を交わした。
 話を聞く所によると、ナズナも自分と同じく両親を亡くして一年前に
ここにやって来たという身の上だった。
 「スゴイですよね、ナズナさん。あんな勇気のあること出来て。
私、あの時、怖くて何も言えませんでした」
 「そんな、たいした事じゃないわよ。教官たちにも立場と
役回りって物があるしね。本局にバレるのが怖くて、隠れて
コソコソとしか悪事を働けない小心者ばかりなのよ。
連中をあしらうコツは、仕事を催促させて義務感を煽り立てることよ」
ナズナは人差し指を立てて、いたずらっぽい仕草を見せた。
 「あぁ、確かに最もですねー。教官たちも公務員ですし。
なるほど、ナズナさん賢いですねー」
そうは言っても。いざという時、自分にそれが言えるかどうかは別問題だが。
 それが顔に出ていたのか、ナズナが顔をしかめた。
 「あ。『自分には出来ない』。とか思ったでしょう?」
 「えっ!?あ、そ…そのぅ。…はい」
 「だめよそんな弱気じゃぁ。毅然として隙を見せないようにしていれば、
弱みに漬け込まれることもないわ。あいつらは弱った草食動物しか狙わない
卑怯な肉食獣と同じなんだから。
噛まれたら、噛み付き返すぐらいのガッツを見せなさい」
 ナズナの言葉には力強さがあった。
何者にも侵されない誇りが彼女の中にはあるのだろう。
そうした気の強い所が、幼なじみのツツジと似通っていると感じた。
 「まぁ、なんか困ったことがあったら言ってね。力になるわ」
明るくナズナは言った。昼の時と同じ、茶目っ気のあるウィンクをして。

 ナズナは、それ以降もミミリを支え続け、助けてくれた。
ミミリにとって『ガーデン808』で出来た最初の友であり、
信頼出来る仲間であり、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた姉貴分だった。
 いつしかミミリにとって、ナズナは掛け替えのない親友となっていた。


         ††††††††††
 
  親愛なるタンポポおじさんこと、ユリウス叔父様へ。
 ガーデン808に来て、一月が経ちました。
厳しい訓練と授業の日々ですが、私は元気です。
覚えることも多くて、皆さんに迷惑かけてばかりですが・・・。(^^;)

 叔父様はいかがお過ごしなのでしょうか。
そう言えば、叔父様が何をなさっている方なのかまだお聞き
しておりませんでした。
叔父様のこと、聞かせて貰えると嬉しいです。
 
 あと、お友達が出来ました。
ナズナ・Z・スイートピーさん。私より一つ上の女の子です。
お姉さんのように頼りがいのある人で、とても優しい方なんですよ。
あまり、甘えっぱなしという訳にもいかなので、
私もしっかりしなくてはと思っています。
それに気の強い所なんて、幼馴染のツツジ・C・ロードデンドロンと
まるっきり同じで。ふふふ。
 あ、ツツジは私と同じXY型遺伝子を持つ同位体の双子なんです。
誕生日的には、彼女の方が私よりお姉さんということになります。
彼女とは毎日メールフォンで連絡をとり合っています。
距離的には離れ離れですけど、おかげで寂しい思いはしていません。

 少々味気ないかとも思いますが、今回は近況報告と言う事で
ここで筆を起きます。では、失礼いたします。

                 ミミリ・N・フリージア

        †††††††††††
         

 手紙を書き終わり、ミミリは電子端末のキーボードを叩くのをやめた。
 紙媒体の手紙も未だに使われてはいるのだが、大体はパソコンなどで
作成した文書を紙に印字して作成するのが主流となっている。
 本当は、ペンを使って紙に書きたかったのだが、経費削減の名目で
紙や文房具の一部は支給の対象外となっていた。
 少数精鋭であるマジェスターの育成にはとかく金が掛かる。
国家を挙げての一大事業なのだ。
 教育、装備、衣食住。そららに従事する人々に支払われる人件費。
何から何まで国家負担。
マジェスターは、国民の血税によって養われていると言っても
過言ではない。
 省くべき無駄は徹底して省き、節制するというのが、
マジェスターを預かる政府と安全保障省の方針であった。
だからこそ十三歳まで里親の元に預け、国民の一部家庭に
養育費の負担をしてもらっているのだ。
 「いけない。もう、こんな時間だ。早く寝なきゃ」
 時計を見ると、消灯時間である22時まであと五分ほどしかなかった。
 部屋は六人一組の相部屋になっている。
他のルームメイトは、もう就寝の準備を終えていた。
 「ミミリ、早く寝なさい。明日も早いのですから」
 「あ、はい。すいません、班長。ただいま寝ます」
この部屋の班長を務める、六期生の女の子に促され、
ミミリは手早く寝巻きに着替えた。
 寝る準備が出来ると、そそくさと部屋に三つ備えられた
二段ベッドの一つに潜り込んだ。


 皆が寝静まったあと。部屋の扉をゆっくりと開ける音が聞こえた。
ギィ、ギ・・・ギィ。
 古木が軋むような音が、扉のたわんだ蝶番から聞こえた。
空いた扉の間から、廊下の照明の光が僅かに差し込んだ。
 足音が聞こえた。絨毯をこする、さし忍ぶような足音。
 ミミリは、それに気づきふと目が覚めた。
二歩三歩・・・六歩・・・十二歩。
 足音が止まった。
 ミミリが寝ている二段ベッドの傍で。
 (・・・え?)