あるメイドの悲劇
「どんな魔法でも、体の老いは止められない。新しい体を誰かから奪い取らなければいけないのさ。ただし、呪いをかける相手が少しでも抵抗をしてはならない。その点、この子は単純でよかった」
王女様の息は、くさったリンゴのような、錆びた鉄のような匂いがしました。
この魔女がかわいそうなシンデレラを騙した姿を、マーガレットははっきりと思い描くことができました。
かぼちゃを馬車に、ハツカネズミを格好いい従者の姿に変えた老婆は、きっとにっこり笑って言ったことでしょう。
『さあ、お次は魔法であんたにきれいなドレスを着せてあげようね。なあに、遠慮なんかいらないよ。あんたはずっとがんばってきたんだ。舞踏会の夜くらい、ご褒美をもらわなくちゃね』
かわいそうなシンデレラ。純真無垢なシンデレラ。お婆さんの言葉を疑いもしなかったシンデレラ……
「どうせ乗っ取るなら、この位美しい娘じゃないとね。ごらん、これから私は贅沢し放題」
ガラスの割れた音を聞きつけ、メイド長が飛んできました。
「ああ、お姫様の大事な靴を割るなんて! これは大変な罪ですよ」
兵士が二人、マーガレットの両腕をつかみました。
「あの娘は優しい子なのです。シンデレラ様、どうか御慈悲を……」
命乞いをしてくれているメイド長の声を聞きながら、それでもマーガレットには分かっていました。おそらく、自分が生きてこの城から出られる事はないだろうと。恐ろしい秘密を知ってしまったのですから。