3月10日
そう言い終ると駆け出して家へ戻った。母を貸してもらった荷台に乗せていく。焼けた家から無傷の壷を2つ見つけて持って行くことにした。
真琴「連れてきました。お願いします。」
兵「よし、ここへ寝かせて」
木がたくさんくべられている所に母と父を乗せて火をつけた。
兵「焼けるまで一日かかるから、やすんでいくかい?」
真琴「はい、ありがとうございます」
無傷の仮眠室に案内された。疲れきっていたので倒れるように横になった。
次の日3月11日
兵「おきろ、終わったよ」
真琴はすぐに起きた。体全体が鉛のように重たく感じた。両親のお骨を壷に入れた。
真琴「ありがとうございました。」
そう言うと焼けた家へ帰って行った。家に着くと使えそうなものをがれきの山から探したが何もなかった。庭に秘密の倉庫があって、真琴は周りを見渡して誰も見てないことを確認して中に入っていった。リュックに米や芋などを入れて、家を後にした。
真琴は振り返らずに東京駅に向かった。東京駅はなんとか無事に残っていたが、さすがに汽車は走っていなかった。駅員によると2~3日で復旧するとのことなので、駅で休ませてもらうことにした。
杏奈は学校が終わると寄り道もせずに家へ急いで帰った。真琴が帰ってきてるか確かめるためだった。居ないと分かると、一人で駅に行き空が薄暗くなるまで汽車が来るのを待つのが日課になっていた。
3月14日、ようやく線路が復旧した。全身ぼろぼろだったが杏奈に会えると思うと、生きていることを心からうれしく思った。しかし、同時に父母の死を弟妹に告げなければならないと思うと、胸が痛んだ。
3月15日杏奈が駅で待っていると汽車から数人降りてきた。その中にすすだらけで、ぼろぼろの服を着た少年がいた。
杏奈「まこと?」
杏奈は駆け寄り抱きついた。
真琴「杏奈!」
杏奈の目から大粒の涙がこぼれていた。真琴は強く抱き返し、杏奈の涙をぬぐいながら軽く口づけを交わした。
杏奈「よかった、ほんとにもう、どれだけ心配したか、もうどこにも行かないで」
泣きながら怒るように言った。
真琴「すまん、汽車が動かなくて」
杏奈「いこう、みんな待てるのよ」
杏奈は涙をふきつつ、真琴と手をつなぎ家へ帰った。
杏奈「真琴が帰ってきたよ」
大声で言った。すると弟妹達が駆けてきた。
あかり「にーにーだ」
あかりと勇斗は真琴に抱きついた。
千尋「お兄ちゃん大丈夫?」
泣きながら抱きついてきた。
真琴「大丈夫だよ」
弟妹の頭をなでながら言った。おばさんが出てきた。真琴のぼろぼろのかっこを見て言った。
おば「真琴君無事だったのね、よかったわ。すぐお風呂沸かすからね」
おじさんは仕事に出ていて居なかった。
真琴は全身火傷だらけであることを、お風呂に入るときに気がついた。せっかく沸かしてくれたけれどとても湯船につかれる状態じゃあなかった。タオルを固くしぼって、全身を拭いて、頭だけ洗った。前に来たときに持ってきた服に着替えた。
茶の間に戻り一息ついてから、弟妹達を正座させ、自分も姿勢を正した。壷を二つ出して置きしゃべりだした。
真琴「千尋、勇斗、あかりよく聞きなさい、お父さんとお母さんは死んでしまった。勇斗とあかりはまだ理解出来ないかもしれないけど、もう二度とお父さんとお母さんに会うことは出来ない。この壷の中に眠っている。家も人もみんな焼けてしまった。東京は焼け野原になってしまった。俺らには帰る家はもう無いんだよ」
真琴は少し休ませてもらうことにした。夕方ごろ杏奈が様子を見に来たら夢にうなされていた。杏奈は優しくひたいをなでた。すると、真琴は熱を出していた。
杏奈「お母さん、真琴熱だしてるよ!」
おばさんがやって来て、真琴のひたいに手をのせた。
おば「あら、本当だわけっこう熱高いわね」
杏奈が真琴のそばに付き添いタオルを変える。
杏奈「真琴、起きてる?大丈夫?」
真琴「起きてるよ。なんとか大丈夫」
杏奈と二人きりになってはじめて真琴が涙を流した。3日間でよくなったので、父母の葬式をすることになった。もともとこの村に住んでいたので墓はこの村にある。
水くみや牛や鶏の世話や薪割りや畑の仕事を一生懸命兄弟で手伝い月日は流れていった。8月6日広島に、9日長崎に原子爆弾が落とされ、8月15日みんなラジオの前に集まり雑音の中天皇陛下の玉音放送で、日本が負け長い々戦争が日本中に大きな爪あとを残して終わったのだった。