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ますら・お
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novelistID. 17790
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シャルラロハート 第一幕「少女と騎士(ドール)」

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第二章「乗りかけた船」



[1]
暁は目を開いた。
明るい光が目を刺激し、一瞬だけ視界が白くぼやけるがすぐに光に慣れる。視界に広がるのはいつもの自分の部屋の天井だ。
いつもなら元気よく布団から飛び出したいところだが、今は布団から抜け出したくない、そんな気分に支配されていた。
布団に深く潜り込むと自分の右手を見つめる。
徐々に昨夜の記憶が蘇って来るのが分かる。
「ローゼ、アリオン……ミラ」
コップから水が溢れ出るように口から単語が出てくる。
あの戦いの後、少女はそのままどこかに行ってしまった。
今も精神的に余裕があるわけではないが、あの時引き止めて色々と聞いておくのも手だったのではないかとも思う。そうすればもしかしたら気休めではあるが精神的に楽になる材料が見つかったのかもしれない。
突如現れたミラは俺に戦うことを求めた。
自分にはそんな技量を持ち合わせてはいないし。度胸も無い。だが、その資質が俺にはあると彼女は言った。
しかし、こればっかりはどうすればいいのか全く分からない。
アリオンとかいう化け物たちと戦い、もし負けるようなことがあれば、その先に待つのは間違いなく“死”だ。これは俺の命を懸けるに値するようなことなのか。
「あー、駄目だ……」
色々と考えて答えを導きだそうとするが一向に答えは出てこない、根を詰めても仕方が無いと思った暁は、布団を思いっきり跳ね上げるとベットから飛び出る。
「今日は休みだし、ちょっと気分転換に綾乃さんの店にでも行くかな」
困ったときはあそこが一番だろうと暁は思う。
落ち着きたい気分の時はいつも綾乃さんの喫茶店に行くのが、暁なりのヒーリングの方法なのである。
部屋から出ると階段を下りていく。
リビングに行くと、先に起きていた父と母が心配そうな顔で新聞を見つめている。
「ん、どうしたの?」
新聞を見つめていた二人は暁に気づき、こちらを振り返る。おはよう暁、と言いながら母がこっちに来てと軽く手招きをした。
暁が二人の近くに寄ると母は新聞を指差した。
そこに載っているのは『公園で爆発か?』という見出しだ。
「怖いわねー、この新聞に載ってるのって、あそこの公園でしょ。ほら、暁もよく通る所の」
母が言うのは、昨夜自分が化け物たちに囲まれた公園のことだ。
記事には文章と共に写真が載せられており、そこにはレンガの敷かれた歩道が広く大きく抉られている光景が収められている。
「あー……」
ローゼとなった自分が斬撃を放ったときの事を思い出す。
あの時は暗くてよく見えなかったし、敵を倒すのに必死だった為に気付かなかったがこんなにも強い斬撃を放っていたようだ。
少女はまだローゼは不完全みたいなことを言っていたが、それでもこの力を発揮できるのならば充分過ぎる気もしなくもない。
しかし、これ程の力を持ってあの少女は一体俺に何をしろというのだろうか。
考えれば考えるほど疑問は深まっていく。
「暁?どうしたのよ。そんな怖い顔をしちゃって」
思考の深い底に埋まってしまっていた暁を母の声が現実世界に引き戻す。
「えっと……うん、何でもないよ。で、何?」
「昨日も帰ってくるときにここ通ったんでしょ。その時には何もなかったの?」
「き、昨日はちょうど近くのコンビニ寄ってそっちの道から帰ったから公園は通ってないよ……」
「そっか、でも暁が無事でよかったわ。何かあったら私どうしよかって思っちゃうもん」
母がモジモジしながら心配そうに暁のことを見つめてくる。
「まぁ大丈夫だろ。暁ぐらいなら爆発なんて、その身で受け止めちまうもんな!!」
父はガハハハと笑いながら冗談をかます。
ちょっと苦しい言い訳だったが、なんとか二人は誤魔化せたようだ。だが、これ以上のことがもし起きたら、嘘をついてもとても誤魔化し切れるものでなくなるのかもしれない。
その時、父さんや母さんは自分の事をどう思うだろうかと考えると凄く不安になった。
(はぁ、かなり厄介な事になったなぁ……)
内心そう思いつつ暁はため息をつく。