空白の英雄3
トオンは自らの手を空にかざしてみた。節くれだち、かつての豆や傷やのせいで決して綺麗な手ではなかった。手の甲はともかく手のひらはなおさら酷い有り様だった。手相と呼ばれる皺があるのが普通だろうが、トオンの手にはそれを一見できなかった。ボロボロの手だ。
こんなになるまで剣を握り続けてきた。不思議だった。
トオンは鎧も着ずに、あの大切な愛剣も握らない自分が不思議だった。公園のベンチで噴水を見ている自分が不思議だった。女の子にプレゼントを買ってやった自分が不思議だった。
トオンはもう一度ミーファに目をやった。
つむじから髪が流れて顔にかかる。あどけない寝顔を見るに、まだしばらくは起きないだろう。
日が傾いてきた。
もう少し経てば風が冷えてくるだろう。それでもミーファが起きなければ、抱き上げて宿屋に運べばいい。こんなに幸せそうに眠っているのだ。起こすなど忍びない。
もう少しだけ待とう。もう少しだけ。