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三毛猫のキン

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三毛猫のキンはいつも一人。
 朝起きるときも、ご飯を食べるときも、寝るときも、遊ぶときも。
 今日も一人で本を読んでいる。さっきも一人で朝ご飯を食べた。今日は日曜日。雨だから大好きな散歩にも行けない。本を読むのに飽きたから、自慢の三毛の体を毛繕いして、買い物に行って大好きなマグロを買って、こたつに入ってパクリとやった。そして寝た。やっぱり一人で。
 三毛猫のキンは働いている。大きな会社で働いている。一流の会社らしい。大きなビルの21階で働いている。会社のみんなは首に立派な首輪をつけている。みんなピカリと光る鈴をつけている。キンの首輪はみすぼらしい。色があせてしまっている。鈴も壊れていて音がしない。でも三毛猫のキンはそんなことは一切気にしない。
 午前の仕事が終わって、休憩室。三毛猫のキンが自慢の三毛をなめていると、会社の仲間が入ってきた。最近引っ越してきた黒ブチのブチ君である。ブチ君の自慢はその首輪。まぶしいくらいに光っている。鈴も大きい。お昼に食べたマタタビが歯の間に詰まっている。ようじをくわえながら自慢の鈴を鳴らして僕に話しかける。
 『三毛猫さん、名前は何だっけ?』
 失礼な奴である。同じ会社で働いているのに、まだ名前も覚えていないらしい。
 『三毛猫のキンです』と少し愛想悪く言ってやった。するとブチ君、
 『君はいつも一人ぼっちらしいねえ?』
 余計なお世話である。こう見えてもブチ君より考えていることは高尚である。一人ぼっちだって二人ぼっちだって、ブチ君には関係のないことである。三毛猫のキンは自慢の三毛をなめながら答える。
 『そうですねえ、一人ぼっちですよ』
 マタタビが詰ってとれないのか、ようじをしきりに上下に動かしながら、ブチ君がいう。
 『それなら、僕のお友達をあげようか?僕の鈴は大きくて立派だから、みんなが集まってくるのだよ。』
 ブチ君は体をそり上げて自慢の首輪を見せつける。まぶしいくらいに光る大きな鈴が三毛猫のキンの目に映る。首輪や鈴に少しの興味もない三毛猫のキンは、やはり自慢の三毛をなめながら考える。首輪や鈴よりも、もっと魅力的なものが自分にはある。自分はこの三毛で十分。お父さんとお母さんからもらった、大切な三毛。これだけで十分である。あとは自分の力で頑張るのだ。首輪の力も、鈴の力も、ましてやブチ君の力など借りない。
 そんなことを考えているうちに、ブチ君の鈴の音を聞いた大勢の猫君たちが集まってきた。皆、ブチ君の大きな鈴の音におっとりしている。
 『ブチさん、いつみても立派なお鈴ですね。おいくらしたのですか?』と会社で一番人気のメス猫シロさん。目がうっとりである。垂れた目がにやけて裂けた口と一つになりそうである。
 『ブチさんの鈴は金剛石よりまぶしいのですよ。私、もう目を開けていられない。』と厚化粧で有名なつや子さん。
 マタタビのようじはいつしかタバコにかわっていて、自慢げなブチ君。春物の新作首輪について語り始め、休憩室を大勢の猫君たちと一緒になって出ていった。三毛猫のキンさんはまた一人、自慢の三毛をなめ続けている。廊下から、シロさんの笑い声が響いてくる。

 仕事場に戻る三毛猫のキン。大きなプロジェクトが成功しつつある。世界中の一人ぼっちな子猫を助ける施設の設立である。みんなが反対したプロジェクトである。ブチ君は見向きもしない。今の時代、儲からない仕事は誰も喜ばないのである。お金にならない仕事は誰も興味がないのである。三毛猫のキンは
そんなことおかまいなし。毎日一人で黙々と仕事をしている。あるとき、こんな会話があった。
 『三毛猫のキンさん、もうそんな仕事やめましょうよ。お金にならないし、偉くもなれませんよ。ほら、最近話題のインターネットマタタビ。こりゃ、売れますよ。よくわかりませんが、なんでも株さえ買えば儲かるらしいですよ。時代はインターネット。難しいことはパソコンに任せておけばよいのですよ。』と後輩のクロ君。普段は口をあまりきかない三毛猫のキンがいう。『猫はねえ、独立しなけりゃならないんだよ。お金も出世も欲しけりゃ自分で何でもするがいい。ただし、人に迷惑をかけちゃいけない。自分で寝どころを見つけて、自分でご飯を食べ、自分で首輪を買う、人に頼っちゃいけない。そんなことで満足してもいけない。そんなことで満足してみろ、人間様みたいになっちまう。みてみたまえ、今の人間様を。何もかも偉い人に任せて自分は批判ばかり。偉いに頼っているからこんなことになるのだよ。猫だって同じさあ。立派な鈴つけて首輪をつけて、金儲けをして満足している猫は、人間と同じだね。猫だったら独立しなければ駄目だよ。クロ君、昔の偉大な猫を知っているかい?』
 何のことを言っているのかさっぱりわからない後輩のクロ君。『猫が鈴つけてどうしていけないのですかねえ?人間様に近づけるのであれば毎日キャットフードが食べられるじゃないですか。そりゃ、昔の猫は今みたいにおいしいキャットフードも食べられませんがね』
 『キャットフードの話をしているのじゃないよ。昔にも立派な猫はいたのさ。たしか明治の時代ですよ。飼い主が無精なためか、名前はないけれど、十分に当時の世の中を沸かせたらしい。人間様の発想じゃあ、ああはいかない』
 『名前のない猫・・・ですかぁ。それで、どうして立派なのですか、その名無し猫さんが?』クロ君はすっきりしない様子である。
 『今、我々猫たちがこうして安心した地位にいることができるのは、この名無しの猫君のおかげだよ。猫が人間界に躍進したきっかけを作ったのさ。わかるかい。つまり名無しの猫君がいなければ、我々はここに存在していない。我々はご先祖である名無しの猫君の恩恵のうえに生きている訳さ』
 クロ君には明治も恩恵もよく理解できない。ただ、インターネットマタタビが頭から離れない。三毛猫のキンが明治の偉大な先祖に尊敬の意を表し、自らもこの猫の世界に一石を投じようと、一人努力していることももちろん理解できない。これから生まれてくる未来の猫たちのために文明を築き、更なる繁栄を願い、寝ることも惜しんでこのプロジェクトに取り組んでいることも、インターネットマタタビの前には全てが無駄に映る。そしてまた一人、三毛猫のキンは仕事を続ける。
作品名:三毛猫のキン 作家名:金之助