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桜田みりや
桜田みりや
novelistID. 13559
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空白の英雄2

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トオンはミーファを隣町まで逃がすだけのつもりだった。だがミーファはそんなトオン考えは汲み取れなかった。
彼女はトオンについて行くつもりだったのだ。子どものミーファには見知らぬ町でひとり暮らす事が恐いのかもしれない。トオンが何度置いて行っても、ミーファはいつの間にかトオンの後ろについて歩いていた。
1ヶ月はそんなこんなを繰り返していた。
「ねぇ、トオン」
また置いてきたはずのミーファがいつの間にか後ろにいた。
「そりゃ私は足手まといだけど…黙って置いていくことはないんじゃない?」
トオンは黙って一本道を歩き続けた。今日中に町までたどり着くまでには休むわけにはいかない。
見渡す限り毒草原のこんな場所では宿も、親切な民家もない。
「ねぇトオン。聞いてる?」
彼は応えない。振り向きもせずにまっすぐ進んでいく。
「トオンってば!」
それでもトオンは応えない。
ミーファは飽きたのか話しかけるのもやめてしまった。
そんなことよりも無限に広がるみどりの草原に心奪われていた。
草原はどこまでも青々と続いていた。その真ん中に白い道が丘の先まで続いている。周囲は山々に囲まれた豊かな自然が広がっていた。ミーファは立ち止まって空を見上げた。雲ひとつない空はどこまでも青く山の端にとけていく。空があんなに遠いのに、青が白くて眩しかった。
ミーファはこんな広い世界は知らなかった。トオンについて行く日々は見たことのない風景ばかりでミーファの好奇心は止まらない。
「わぁ、花が咲いてる!」
まみどりの草から咲く花も淡いみどりだった。少し白っぽく薄い花はなんともかわいい可憐な花だった。小さな花は柄に似合わず強く甘い香りがする。もっと近くで見たくてミーファはその花を手折ろうと手を伸ばした。
「触るな!」
トオンはミーファの手を叩いた。
「痛いよ!」
「このバカ。来い!」
ミーファの腕を引っ張り歩き出した。突然のことにミーファは何が何だかわからなかった。
「トオン、どうしたの? 怒ってるの? ごめん、ごめんなさい。怒んないで」
「看取りの草だ」
トオンは振り返りもせず、ぶっきらぼうにそう答えた。
「看取り?」
「ここらは毒草の原なんだ。うかつに触るな」
そのままトオンは腕を掴んで歩き続けた。それはミーファがまた毒草を触らないためでも、町に早く着くためでもあった。
ミーファはちょっと手首が痛かったがそのまま引っ張られるようについて行った。手首を掴む手を払うなんてできそうになかった。
ふと見ると、トオンの手の甲から血が滲んでいた。
「トオン、待って。血が出てる」
「気にするな」
どうやらミーファの手を掴んだときに看取りの草で引っ掻いたらしい。ミーファは気が気でなかった。
「毒草でしょ」
「俺は大丈夫だ。免疫がある」
「ダメ!」
ミーファは強い口調でトオンの足を止めさせた。
「血が出てるんだよ。ちゃんと洗わないと!」
「かすり傷くらいで…」
「もう! 手出して!」
ミーファはトオンの手をひっ掴んで水で洗い出した。
「免疫あってもちゃんとしないと膿んじゃうよ」
洗う途中、トオンの手の不自然な皺に気がついた。一本や二本ではない。無数にある不自然方向の皺。それは全て傷痕だった。
「いっぱい怪我してる」
「かすり傷だ」
「痕が残ってるのよ? ふふ、深いかすり傷ね」
ミーファは持っていた柔らかいハンカチで手の水気を拭いた。傷自体はただのかすり傷よりも少し深い。拭いても拭いても血はすぐに滲んでくる。
「ねぇトオン」
傷口をハンカチで縛って手を離した。
「私って邪魔かな」
「あぁ邪魔だ」
ミーファも薄々自覚はあったが、はっきり言われると心が折れた。必要とされてないのならトオンのために次の町で別れようと思った。
そもそも必要だったのはミーファのほうだ。ミーファはトオンに助けてもらって、生きるためには彼が必要だった。
それでも嫌がるトオンについていくようなわがままは、ミーファの性格上はできなかった。
「私、次の町で…」
「俺には行く場所がある。だが今はその時じゃない」
トオンは唐突にそんな事を語りはじめた。あんまり急すぎてミーファはのみこめず相槌も打てなかった。
「その時が来たら俺は行く。足手まといは邪魔だ。だがな」
そっと大きな手が頭を撫でた。
「その時までは足手まといが、いてもいい」
それだけ言い終わると彼は再び歩き始めた。
距離が広がる中、ミーファは言葉の意味を噛み砕いていた。トオンの言わんとする事は何なのか。それに気がつくと花が咲いたような笑顔になった。
「ホント? ついていってもいいの?」
ミーファはトオンの後を駆けていった。

その日の夜には町についた。

どうにか開いている宿を見つけてとめてもらうことはできた。が、部屋は1部屋しか空いていないらしい。トオンは別の宿屋に行こうとしたが、ミーファが勝手に部屋を借りてしまった。
「ねぇトオン」
ミーファは部屋の中にあるひとつのベッドの上で枕を抱きしめていた。
「怒ってる? 勝手なことしたし…部屋にベッドひとつしかないし。一緒に寝るの嫌だった?」
「一緒になんて寝るわけないだろう」
トオンはミーファの何倍も年を取っている。だからと言ってミーファの父親でも家族でもないトオンが床を同じにするわけにはいかなかった。少なくとも彼の考えはそうだった。
だが当のミーファは何も考えずにねだってくる。
「なんで? ベッドはひとつだけどダブルベッドだし、一緒に寝れるよ」
トオンはため息を吐いた。話が、言葉が通じないのは今に始まったことではない。
彼女は神経の太さだけは一人前なのだ。
「俺はソファーで寝る」
「…私がソファーで寝るよ。ね?」
ミーファが後ろめたさからそう申し出た。小柄なミーファがベッドで寝るよりもがたいのいいトオンがベッドを使うべきだ。ミーファはそう信じて疑わなかった。
「明日、この町を出る」
トオンは愛剣を壁にもたれさせた。荷物の整理はそれで全てだった。
「もう出ちゃうの? 今まで町についたら何泊かしてたじゃない」
「看取りの草が近い。あまり長居しないほうが身体のためだ」
「ふーん。あの草ってそんなに悪いんだね。トオンの手は大丈夫なの?」
「明日も早い。さっきと寝ろ」
「眠くないよ」
トオンの眉間にシワがよった。彼にはすぐに眉間が険しくなる癖があった。意外と彼はすぐ顔に出るほうだった。
「あ、トオン。どこ行っちゃうの」
「風呂だ」
トオンは簡素なバスルームへと行ってしまった。
「あぁあ、ひとりぼっち…」
枕ではなく足を抱え直した。ミーファが本当にこの部屋を借りた理由はひとりがたまらなく恐いからだった。トオンの隣で眠れば恐くないと考えたのだ。だがトオンにはトオンの考えがある。それはミーファの希望とは真逆だった。それだけのことだ。
もちろんミーファにはトオンの真意はわからない。ぼんやりはわかっていた。ただあまりにぼんやりしすぎてやはりわからない。それはミーファが子どもだかだろうか。
子どものミーファはトオンが構わない理由を好き嫌いで結論づける以外はできなかった。だからトオンに好いてもらおうと必死だった。必死に必死に何かないかと考えた。
「サッサと風呂に入って寝ろ」
作品名:空白の英雄2 作家名:桜田みりや