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エンドレス・ワールド

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例えその目的と理由が、完全なる自分のエゴだとしても。

「ただ、1つ知りたい」
彼が、問う。
私に背中を向けたまま、落ち着いた声で。
「何?」

―――『悪』がいなくなったら、『正義』ってどうなるんだろうな?

それに、私は答えられなかった。
どうなるか、なんて、考えたこともなかった。
私は―――『悪』がいなくなったら、どうなるのだろう?
影を亡くした光は、輝き続けられるのだろうか。
私も『正義』でなくなるのか。
それとも、『正義』であり続けるのか。

―――どうでもいいでしょ、そんなこと。

確かにな、彼はそう言いながら笑い。
「まあ、どうせ死ぬならさ」
あの日、ハンバーガーを食べていた時のような明るい調子で。
私に囁きかけるように―――言葉を遺す。
……お前に殺されて、幸せかも。

ぱん、と。
銃の乾いた音と共に、彼と―――私は崩れ落ちた。



巧妙な悪徳詐欺師が世の中をにぎわせているらしい。
マスコミは彼らを極悪非道とはやし立てる。
ああ、まだ『悪』はあるのか。
一体いつになったら、私は『正義』でいることをやめられるのか。

……なんて。
私は今、『悪』がいて安心しているくせに。
『悪』がいる限り、私は『正義』でいられるから、ほっとしているくせに。
私が今生きていられるのは―――自分が正義であるという薄皮一枚のアイデンティティがあるからだと知っていた。
だから私は、自分を失うのが怖くて今も『正義』で。
そんな自分が、嫌だと思ったのは初めてだった。
彼がいなくなってから、―――殺してから、そんなことばかり考えるようになってしまった。

『悪』は、いつになったらこの社会から消え失せてくれるのか。
『正義』はいつになったら、『悪』を倒さずに存在できるようになるのか。
私は―――いつになったら、『正義』から解放されるのか。
それは私には分からない、けれど。
私にはそんなことどうでもいい。
社会のせいばかりにはしない。できない。
だってこの終わらない螺旋に首を突っ込んだのは、ほかならぬ私自身で。
この―――今にも張り裂けそうな気持ちは、軽はずみに快楽を知り、それに溺れて自意識すら失った私への罰なのだから。

今の私に必要なのはただ1つ。
求められていることも―――たった1つだけ。


「私は、皆を救いたいんです」


今日もただ、自分だけのための『正義』を実行することだけだ。




自分が泣いていることに私は―――今、初めて気づいた。
作品名:エンドレス・ワールド 作家名:ナナカワ