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夢と現の境にて◆参

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俺は幻聴でも聞いたのだろうか。
涙を流しすぎたために腫れただろう目は、上手く開かなくなっていた。目を手の甲で軽く擦った。ひりりとした痛みが走るが、そんなことに構っていられるほどに自分の気持ちは落ち着いてはいなかった。

―――好きだ。狭霧が好きだ。

耳にこびり付いて離れない。あれは確かに間宮の声。誰の声でもない間宮の。
それとも悪夢の延長なのか。だとしたらなんて残酷なことをしてくれたのだろう。まるで、まるで自分の願望じゃないか。

何も信じられなかった。自分が追い払ったのは間宮だと認識しているのに、あの言葉を投げかけたのは間宮ではないと、噛みあうことのない矛盾した答えが自分の中で幾度となく返ってきては渦巻いていた。認めたくない信じたくない。なぜ?

―――…そうだ、怖いからだ。

嘘なのだ。全部。本当は怖いのだ。怖くて怖くて堪らない自分がいるのだ。これ以上誰かに騙されれば、信頼されなくてはもう生きていけないと、今にも崩れそうな自分がいる。だったら、いっそのこと騙される前に暴いてやれ。相手の本性を心理を。お前は、本当はこういう人間なんだろう?と。自分を守るために。自分を保つために。信頼するな。人が自分にしてきたことを自分でやって何が悪い?と微笑んで見る自分がいる。
そんなものをずっと間宮の前で隠してきた。信じたい信じたいと思う反面、いつ本性を現すのだろうかと怯える自分がいる。
本当の「自分」は、そういう人間なんだ。まるで小動物のように丸くなって、相手を窺い、どう逃げようか考えている。全ては自分のために。
間宮は気付いているだろうか?今はもうこの場にいない人間を思う。俺がこんな臆病者だと。卑怯者だと。彼は。

信じると、言ってくれたのに。

そのことだけがいつまでも気がかりで。涙を流した。
信頼の築き方など知らない。騙されること、騙すこと。それだけが自分の中にある生きる方法。生きていく上で受けていたもの。自分に自分で嘘を吐いて。これは、言い逃れではないのだよ?これは嘘ではないのだよ?そう平然と言いのけて。
ごめんなさい。
ばあさまに深く謝罪したかった。厳しくしつけられた約束は、自分の中でとうの昔に根本から崩れ去っていた。それほどまでに、自分という人間は脆く、弱い。

―――…間宮

いつから、こんなにお前の事を考えるようになったのだろう?いつから、いつからお前に見捨てられることが、こんなに怖くなってしまったのだろう?もう生きてはいけないとまで言いそうな程、お前の存在は大きくなって。だけど…、自分という存在に縛られることの毎日を、後悔するのではないかと、お前を思って離れさせようとも思う自分も、どれも真実なのに、選ぶことができないなんて―――。

ゆっくりと瞼を閉じた。
もう、考えたところで答えなんて出てこない。きっと、俺は間宮を開放するだろう。これ以上、あいつを縛らないために、考えないために。これは、もともと一人で抱えて、これからも…ずっと、自分が背負っていくものなんだ。人に頼ろうとするところから、間違っていたんだ。…間違ってたんだよ、間宮。何もかも。夏休みの出来事も、あの日出会った事も、…お前の約束を信じたこともさえも。…全部、全部。

「……せ、んぶ…夢だったんだよ――。…最高に、幸せな、―――夢。」







「違う」

不意に聞こえた声に目を開けた。いつの間にか、襖を開け、間宮が部屋の入り口に立っていた。どうやらすんなりとここまで来れる様になってしまったらしい。俺はなるべく強い眼差しで間宮を睨みつけた。

「違わ、ない…。こんなの、絶対続かない。間宮は、俺から離れるべきだ。」

酷く声が掠れる。聞こえたのかどうか分からない。だけど例えそうだったとしても、二度も言うつもりはなかった。どうせ、涙の跡が残って酷い顔にもなっているだろう、気にしない。どんな姿を見せても、もう構わない。もう、離れてくれて構わないから。寧ろ失望して、自らここを離れて欲しいから。…間宮は静かな様子で俺を見ていた。そして俺の前に正座すると、口を開いた。

「俺が、嫌いか?」

耳に響く、優しい声。
なぜ…。あんなに酷いことを言ったのに、どうして。どうしてそんなこと、聞くんだよ

「お前が俺のこと嫌いでも、俺は変わらない。お前の事、嫌いになんてなれない。」

やめろよ。なんで、なんでそんなこと―――

「お前が俺に嘘ついても、騙しても、何しても構わない。だけど、俺はお前にそんなことはしない。―――信じてくれるように、絶対しない。」

やめろ…、もう、もう―――

「狭霧が…、好きなんだ。多分、あの日、会った時から…ずっと。」

迷いのない眼差しに、塞き止めていた涙が溢れた。溢れて、溢れて、今にも気持ちをいってしまいそうで、俺は間宮に待ってくれ、となんとか言い残した。
待って、待って…、そしてあわよくば、俺を諦めて欲しい。だけど、待ちきれなくなってしまったら、きっと。

――――俺達は、離れることが出来なくなってしまうだろう

それからまた、俺達は今までと変わらない関係に戻った。戻ったけれど…
交されたあの、言葉は。

いつか、応えなければいけない


作品名:夢と現の境にて◆参 作家名:織嗚八束