バルコニーの向こう
++Z&R XX
大きな木の根元に、二人は寄り添うようにして眠っていた。ツヴァイは木に背を預け、リアンはツヴァイの腕に抱かれて。
しかしやがて、どちらからともなく目を覚ます。
「よかった。ツヴァイ、生きてる」
「お前も無事だったか」
とは言ったものの二人とも血まみれで、周りには木の枝や葉が散らばっている。あの時ツヴァイが翼を広げて威力を殺し、木がそれを助けてくれなかったら、二人は即死だっただろう。
ずいぶん長く眠っていたのか、東の空はもう白みはじめている。やがて夜が明けるだろう。
「もうすぐ夜が明けるな」
「みたいだね。あたしもう何年も朝なんて見たことないや」
「俺も50年くらい見てねぇ」
「じゃあ二人とも久しぶりなんだね」
二人は見つめあい、くすくすと笑みをこぼす。それぞれにあれほど思い焦がれた白日の光が、もうすぐこの身を焼こうとしている。今初めて夜という束縛から解放されようとしている。
「リアン。どっか行きたいとこあるか」
「どこでもいいよ。ツヴァイが好きなところにつれてって」
「わかった。じゃあ、とりあえず俺の故郷にでも行くか?」
ツヴァイの言葉にリアンは頷く。
そしてそこでようやく、ふと自分の違和感に気づいた。
「ね、ツヴァイ。あたし今どんな顔してる?」
「ん? 笑ってるよ。そういや初めて見るな。自然すぎて気づかなかった」
「そっか。へへ、初めて笑っちゃった」
そのまま二人はしばらく見つめあったまま笑いあう。
やがて追っ手がやってくることも、体の痛みも、今はすべて忘れていた。
ただひたすらにふざけて笑いあう。お互いにもう体がいうことをきかないことなどまったく無視して。
そしてひとしきり笑いあい、二人はそっと目を閉じる。
「もう寝よう。ちょっと疲れちゃったから」
「ああ。おやすみ、リアン」
「おやすみ、ツヴァイ」
そして二人は目を閉じる。
やがて朝日が昇り、二人の体を優しく包む。
暖かい光に抱かれ、吸血鬼と少女の二人は目覚めの時を夢に見た。