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君僕リレイション【relation.2 友人】

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最近、「友達になって」と言われた。
 そんな台詞を高2にもなって聞くことになるとは思わなかっただとか、状況的にアレ半分脅迫だったよなだとか―――性格曲がってる割に真っ直ぐなところがあるんだな、だとか。
 言いたいことは色々あるが……まあ、そんなこんなで、俺はあいつと「友達」になることになったのだった。

**

「弟くん?」
「ああ。ったく相変わらずだ」
 移動教室の途中に窓の向こうに紫煙を見てもしや、と思ったがやっぱり亜希だった。見つかりにくいという理屈――特進科の教師は普通科の生徒は管轄外とばかりに無視する――はわかるが、こう頻繁にサボりに来るのはいかがなものか。
「それはおもしろいね」
 いつの間にか俺の隣に並んでいた『顔だけは』好青年な茶髪は蓮見志麻という。つい最近、ただのクラスメイトから友人になった男だ。曰く、人やモノの『関係性』が見えるらしい。
 ……俺と弟の関係はおもしろいとのことだ。悪趣味なヤツ。
 呆れきった目で心底楽しそうな笑みを見やり、肩をすくめる。
「そりゃどーも」
 一週間もすれば、こいつのこの性格の悪さにも慣れてきた。俺が「全部読んだら話しかけろ」と言って押し付けた本を徹夜して読み終わった根性も、認めようかとも思う。
「お前のその悪趣味、どうにかなんねーの?」
 だが、やはり自分を娯楽にされるのは不愉快だった。
「僕の能力がどうにかならないと無理、かな」
「『性格』の間違いだろ」
 このニヤケ面を見ていると殴りたくなるが、俺は理性的な人間なので、言葉の右ストレートをお見舞いすることにする。
「厳しいなぁ、夏野は」
「躾は厳しくしないとな?」
「たまには飴で甘やかしてよ」
 俺の軽口に、蓮見は唇を尖らせてわざとらしく拗ねた顔をする。ねーママーあの子ばっかりずるい僕も構ってよー。そんな副音声が聞こえてきそうなほどだ。
 あまりにも気色悪かったので、思いっきり顔を背ける。
「俺は崖に突き落として育てる主義だ」
 こいつはクラスではクールを気取っているくせに、その本性は非常に子供っぽい。好奇心旺盛で無神経な、子供。これで蓮見が女子だったら普段の姿とのギャップにときめくこともできたかもしれないが、いかんせん同性なので面倒なだけだ。
「後輩君には優しいのにー」
「拓巳はお前と違ってイイ奴だからな」
 人としてどうかと思うレベルの蓮見となんて、比べるのもおこがましい。しかし、当然のことを言ったにもかかわらず、逆に呆れた顔とため息を返された。
「…なんだよ」
「なんでもないよ?」
 理解できない表情がひっかかり、聞き返すが、取ってつけたような笑顔でかわされる。
 目的の教室に着いてしまったこともあって、結局その意味はわからずじまいだった。

**

 授業が終わり、次は昼休みだ。蓮見と適当に雑談しながら、購買のパンを広げる。
「理科の飯塚先生って美人だよね」
 そう言い、蓮見は弁当の中から真っ先にカラアゲを選んで口に運んだ。
「まあ、そーだな」
 うっかり俺は年上は好みじゃないと言いそうになったのを飲み込んで、曖昧に頷く。こいつのことだから変に邪推しそうだ。ちょっとした間を誤魔化すように、カレーパンの包みを破く。
「体育の角田とかも本気で狙いに行ってるしさ、榎木の恋も前途多難だねぇ」
「……榎木?」
 なんでもないことのようにこいつは言ったが、榎木とはこのクラスの榎木のことだろうか。このクラスでは割と活発で、よく椎田やそれこそ蓮見とふざけあって遊んでる、あの。
「うん、榎木和也くん17才O型おうし座」
「言い方がキモイ」
 一刀両断してから、問題はそこではないと気づく。
「え、………本気?」
「うん本気。マジでフォーリンラブ」
 さして仲が良いわけではないが、俺は心の中で報われない恋に身を焦がす榎木に手を合わせた。10近くも歳の離れてる、しかも教え子なんかの想いにクールビューティ飯塚が応える確率はほぼ0%である。まあ、美人な女教師への恋心なんて、この広い世の中掃いて捨てるほど転がってるだろうが。これも青春の一ページだろう。
「ちなみにねえ―――」
 続けられた言葉に、嫌な予感がした。そうだ、こいつの話に限って、そんなありふれた話で終わるわけがない。
 俺の思考を読み取ったのか、蓮見はまた例の、珍しい宝物を自慢する子供のような顔をする。……もしや。ああ、なんとなく先が読めたぞ。
「飯塚先生も榎木のことが好きなんだよね、これが」
 『関係性』を視ることができる蓮見は、飯塚先生がクールな表情の下に隠してる想いをあっさりと暴露する。誰彼構わず言いふらす性質でなかったことを、彼女は喜ぶべきか。―――いや、この男は、きっとそれより性質が悪い。
「うまくいくといいね☆」
「いやまずいだろ!」
 しれっと笑顔で言うものだから、思わず声が大きくなる。
「愛があればたとえ茨の道でも?」
「少女漫画の読みすぎだ。一時の感情で将来おじゃんになったら目も当てられねえ」
 嫌な予感がする。すごく嫌な予感がする。もしやと思うがこの男―――
「でも、現実でそんなドラマみたいなことが起こったらさ、面白くない?」
 にこにこと楽しげに、蓮見は首を傾げる。こいつはいつも嘘か本気かわからない言い方をするが、基本的にこういう時は、本気だ。
「もしかしてお前……」
「僕は応援してるよ、二人の愛を?」
 それだけ聞くといい人っぽいが、こいつの場合理由が理由である。榎木も先生も、興味本位の娯楽で恋を応援されたらたまったもんじゃないだろう。これは止めるべきか。しかし止められるのか?
「二人の想いが伝わったとして、やっぱり誰もいない放課後の教室での(由希規制)は必須だよね」
「お前ふざけるなよ!?」
「え?やっぱりここは理科の先生だし鍵をかけた理科室かな?」
 あまりにも無邪気に言うものだから、反射的に頭をはたく。こいつが見すぎていたのは少女漫画じゃなく、AVだったようだ。
 ――駄目だ。こいつ本気で駄目だ。逃げろ榎木と先生、蓮見の目の届かないところまで。
「お前、何?出歯亀が趣味なのか?おい」
 冷ややかな半眼でその楽しげな笑みを見やる。さて、どうやってこいつの行き過ぎた野次馬精神を諌めるか。俺の手腕に、クラスメイトと教師の命運がかかっていると言っても過言ではない。
「やだなあ、起こりうるシチュエーションを挙げただけだよ」
 悪びれもしない態度に、あからさまなため息が出た。目を合わせ、言い含めるようにゆっくりと語りかける。
「とりあえず、級友のリアル恋愛を面白半分で考察するのはやめろ、人として」
 すると蓮見は少し黙って、真剣な顔つきで言った。
「僕は真剣だよ?」
「真剣に面白がるな!」
 駄目だこいつ。本っ当に、どうしようもない。諦めで心が折れそうになるが、ここで屈したら二人の人生が大変なことになる。それに何より、こいつが人の恋路を上からニヤニヤ眺めるのを考えると、非常に胸糞悪い。
 
 結局、俺は蓮見の説得に昼休みを丸々費やしたのだった。

**

 窓の向こうに煙を発見。相も変わらずあの金髪頭は隠れる気がないらしい。小学生とかくれんぼでもして鍛えなおして来い。