水槽
20年後。とある居酒屋にて
「本当に地下に研究所なんてあったのかよ?」
目の前に座る友人がわたしを疑わしそうな目で見つめている。
「分からない」
「はぁ?」
今となってはあれが現実の光景だったのか自分でもよく分からないのだ。
「今になってみるとよく分からないんだ。あの日本当に地下の研究所へ行ったのか」
「まあ中学生の頃だったんだから記憶が曖昧になるのも分かるけどさ。でもつよしって子は実在したんだろ?」
「ああ」
確かにつよしと言うわたしの友人は実在した。
あの逃走劇の後わたしは無事家へたどり着いたが、学校への恐怖からノイローゼとなり不登校になったので両親はわたしを別の学校へ転校させた。
だから卒業アルバムは持っていない。
でも中学時代からの友人につよしという少年が存在したのか確認したところ卒業アルバムにその名前が載っていることを教えられた。
つよしはある時から不登校となりその後二度と学校へ通うことはなかったという。
「なるほど。つよし少年が謎の失踪を遂げたのは事実ってわけだ」
友人はニヤニヤと笑いながらビールを口に運ぶ。
「でもそれだけじゃあ地下研究所が実在したってことにはならないよな?」
確かにそうだ。
「いっそのことその中学に行ってみたらどうだ?まだあるんだろ」
「行ったさ。とっくの昔にね、その時にはもう廃校になっていたけど」
その中学校はわたしが転校した二年後に廃校になったという。
だからわたしが学校へ訪れた時、そこはすでに廃墟と化していたが取り壊されてはいなかった。
「花壇の花々はもう枯れ切っていたよ」
わたしは笑いながらビールを飲む。
「それで結局入り口はあったのかよ」
わたしは苦笑いを浮かべながら答える。
「なかったよ。足で何度つついてみても扉の感触はしなかった」
「ほら見ろ結局入り口なんてないじゃないか」
「君の言うとおりきっと研究所なんてなかったんだろうね。でもわたしの記憶は言ってるんだあの研究所は実在したと、存在しないならなぜノイローゼになんかになったのかと」
「まあ確かに存在しないとすればノイローゼになった理由がなくなるな。それはそれでおかしいが……でも扉はなかったんだろ?結局どっちなんだよ」
「だから分からないって言ったろ」
わたしは自嘲気味に笑いながらビールを口に運ぶ。
あの研究所が実在したのか、もとから存在しなかったのか今となっては闇の中だ。