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水槽

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この学校には秘密の地下施設がある。
そんな噂が立ち始めたのはずいぶん前のことだ。
うちの学校は大きい方だが地下に秘密の施設を作れるほど資金があるとは思えなかった。
だからそんなの嘘に決まってる。
しかし最近また新しい噂が立ち始めた。
この学校の地下には巨大な水槽がある。
巨大な水槽……水族館でも始める気だろうか。
別にそんな噂信じてるわけじゃない。
でももしその水槽が実在したとして中には何がいるのだろうか。
ぼくはその噂にとても興味をそそられた。
だから馬鹿なことだと思いながらも噂について調べた。
そしてたどり着いた入り口がここ。
三階東階段の掃除用具入れ。
最も入り口についての噂が多い場所だ。
ぼくは周りに誰もいないのを確認して掃除用具入れの扉を開いた。
……ほこり臭いし煙たい……。
僕は懐中電灯を取り出すと口元を押さえながら中に入った。
スイッチを押して明かりを点ける。
たしか奥の壁を押せばよかったはず。
ぼくは壁に押し付けた手に力を込める。
……何も変化はおきない。
クソっやっぱりガセネタか。
悪態をついた時背後から教師の声。
「君、こんなところで何をしている」
数学教師の村田だ。
トレードマークのメガネを人差し指でずり上げながらこちらを睨みつけてくる。
「えっと、この周りを掃除中にシャーペンを落してしまって、それでもしかしたらこの中にあるかもと……」
用意しておいた言い訳を口にする。
苦しい言い訳なのは分かってる。
でも僕がシャーペンを落していないという証拠はない。
なんとかこれで通せるはずだ。
村田は怪訝そうな表情をしたがそれ以上追及しようとはしなかった。
「探すのは明日にしなさい。もう今日は帰るように」
そう言うと村田はこちらに背を向けて歩き出す。
僕はその後ろ姿に向けて中指を立てる。
自分でも可愛くない生徒だってのは分かってる。
でもつい反射的にやっちゃうんだよな。
村田の姿が見えなくなると僕はもう一度掃除用具入れの壁に手を触れる。
やはり、何も起こらない。
今度こそ諦めが着いた。
さあ、帰ろう、無駄な時間を使ってしまった。
下駄箱に向かい靴を履き替える。
校庭では運動部の生徒達が部活動に励んでいた。
僕も運動部に入ろうかななどと思いながらその前を横切る。
校門をくぐろうとした時ふと最近不登校の友人つよしの言葉が頭をよぎった。
「なんでも、校舎の裏側の花壇の中央には地下への扉が隠されているらしい」
どうせまた嘘に決まってる。
そう思っていても結局足が動いてしまう。
周囲を確認してから花壇に近づく。
花壇を掘り起こしているところを見つかりでもしたらただでは済まないだろう。
無駄なことで手を汚すのは嫌だったので先に足で中央をつついてみる。
「あ……」
土の柔らかい感触かと思いきや、土の下の堅い物に触れた。
まさかと思って何度か足でつついてみる。
やはりこれは土じゃない……。
僕は花壇の中央に手を突っ込んだ。
手が取っ手の様な物に触れる。
それを思い切り引き上げた。
土や花が重力にひっぱられぼとぼとと落ちて行く。
「嘘だろ……」
その友人の言葉通り花壇の中央に隠された扉の下に地下への階段が続いている。
うわぁすげえ。
おいおい、これ明日学校で自慢できるぞ!
僕は学校の人気者だ!
花壇を戻して家に帰って早く明日を迎えよう。
扉を閉じようと手を伸ばす。
待てよ……どうせ自慢するなら地下も見た方が自慢できるんじゃないか?
取っ手に手が触れたがそのまま引っ込める。
よし、下りてみよう。
階段へと足を踏み入れる。
扉を閉めていないことに気付いたが、どうせすぐに戻ってくるんだ気にすることはない。
薄暗い階段はどこまでも続いているようでまるで地獄への階段の様な錯覚を催した。
次第に光が見えてくる。
やっと階段も終わりか。
自然と一段を下りる速度が速くなる。
徐々に光の中に巨大なタンクの様な物が見えてきた。
いや、あれはタンクじゃなくて……。
光の中に足を踏み入れる。
あぁ噂は本当だったんだ。
息をのまずにはいられない。
そこはまるで映画に出てくる研究施設そのもの。
周囲に大量の機械が設置されている。
そしてその中央にはこれまた噂通りの巨大な円筒型の水槽があった。
中を何かが泳いでいる様だがここからではよく見えない。
もう少し近づいてみよう。
僕は階段を下りて反対側に回り込む。
ここからなら水槽の中がよく見えるはずだ。
水槽を見上げると何か文字が書かれているのが分かった。
Merfolkと書かれている様だ。
何のことだろう。
その時僕の目の前を水槽の中で泳ぐ何かが横切る。
それを見て僕は絶句した。
そいつは下半身に魚の様なヒレを持っていて上半身は人間そのものだった。
ただ体中にゴツゴツとした出来物があって真っ青な体なのを除いて……。
そして最も恐ろしかったのがそいつの顔。
いたるところが破損していて片目がないその顔はまるで生気を宿していなくただ獲物を襲うためだけに生きる怪物の表情を浮かべていた。
ああ、いったいこいつは何なんだ……。
人魚か?ああそうだよ人魚だろうさ。
だって上半身人間で下半身魚のバケモノなんだから!
その時頭上で足音がした。
見上げると頭上に足場が作られている。
そこを何人かが歩く音。
おそらくここの研究員だろう。
バレるとまずい。
僕はどこか身を隠す場所がないか探し大きな端末の陰にしゃがみこんだ。
上を見上げると研究員たちの姿が見える。
研究員はアジア系からアメリカ系など様々な人種がいるようだ。
研究員達は何かを話し始めたが英語だったので内容は理解出来なかった。
リーダーらしき日本人の「OK」という言葉と共に会話は終わる。
彼は向かいの通路で端末を操作している研究員に向かって手で合図を出した。
研究員が何かのボタンを押すと水槽の蓋らしき物が横にスライドする。
「それじゃあエサを投下しろ」
リーダーの言葉に別の研究員が「はっ」と答える。
あのバケモノのエサは何なんだろう。
僕は答えた研究員へと目を向けた。
「えっ……?」
複数の研究員に持ち上げられている”エサ”を見て僕は呆然とした。
まさか……こんなことがあり得るのか……?
研究員達が持ち上げていたのはロープで縛られたつよしだった……。
麻酔でも打たれたのかぐったりしている。
あぁなるほどつよしがずっと不登校だったのはこういうことか……。
つよしはこの研究所の人間に拉致されたのだ。
もしかしたらそれは研究所の入口の存在をみんなの間に噂として広めたから?そもそもなぜつよしは研究所の入口を知っていたのだろうか、もしかしたらつよしもこの研究所に来たことがあるのか……?
ああ、そうだよつよしは研究所の存在を知ったから殺されるんだ。
なら僕は……?
つよしの体が水槽の中に投げ込まれる。
落下の衝撃で目を覚ましたらしく周囲を見回す。
そして手足を動かそうとし自分がロープで縛られていることに気付く。
つよしは何かを叫んでいる様だ。
しかし水の中では叫びなど無意味。
口から泡がゴボゴボと吐きだされるだけ。
人魚はものすごいスピードでつよしに近づき巨大な手でその体を捕まえる。
そして口を開きつよしの頭を―。
「うわぁあああああああああああ!」
作品名:水槽 作家名:逢坂愛発