正しいとんかつのあり方
木村はうなだれた。またもや嫌われてしまった。僕はどこまでも報われないのかと思った。
「それと照れ隠しで口聞いてくれないから。プレゼントってタイミング外すと渡しにくいだろ。そこもちゃんと謝ってあげろよ。まあ俺らもだけどな」
じゃ、ゲームするからと言って雄介は足早にリビングを出て行った。
「そう……だったのか……」
木村はプレゼントを握り締めた。
「開けてみたらどうですか?」
ふと片岡に言われたような気がした。包装をゆっくりと解いてみる。そこにはイカの塩辛が入っていた。
「そういや、『イカの塩辛が切れちゃったわ~』って言ってたな。全くどこまで人をなめきっているのかね」
そう言った木村の顔は柔らかくほころんでいた。
「おい、七瀬君。君、仕事がはかどっとらんのじゃないかね」
「へーい」
七瀬は木村に気のない返事をした。木村はやかんのように頭を沸騰させた。
「へーいじゃない、馬鹿者!ガゴメの新商品の宣伝ちゃんとお得意先回れてんのか!?」
「うっせー、馬鹿係長」
「誰が馬鹿係長だっ!!」
まあまあまあと片岡は間に入った。無理もない。あの事件からまだ時間が経っていない。お互い打ち解けるにはまだもう少しかかるだろう。
「まあすねるな、七瀬。ちゃんと働いたほうがお前のためだぞ?」
「別にすねてねーよ」
「すねてるすねてる」
と冷やかすのは同僚の女性社員である。もちろん木村係長も照れているのだ。ま、バツが悪いというかなんというか、でもそういうのは時間の問題であっさり解決するものだ。
「しかし、この玉ねぎ入りイタリアンソースというのは何か気に食わないね」
「なんでっすか?」
木村のぼやきに七瀬が食ってかかる。
「だって、とんかつにはウスターソースかとんかつソースだろ?そう思わないかね、七瀬君」
七瀬は大声で言った。
「思わないっすーーー!!営業行って来まーーす!!」
鞄をひったくるようにして出て行った七瀬を皆で笑った。
「僕はそう思いますね。やっぱりとんかつには、とんかつソースかウスターソースですよね」
木村は片岡を指差した。
「違うよ、片岡君。『ウスターソースかとんかつソース』だよ。そこんとこ、間違えないでくれよ!」
「はいはい」
こうして、このとんかつ戦争は幕を閉じるのであった。
とんかつの上には何をかける?
正しいとんかつのあり方は、答えが出たような出ないような。でもたまにはお好み焼きソースなんかをかけてみても、それはそれで楽しい食卓になるかもしれませんね!
作品名:正しいとんかつのあり方 作家名:ひまわり