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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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Episode.2 長



「ンじゃ、改めて自己紹介させてくれ。俺はこの町の長のヴェクサだ」

そう言って握手を求めてくる男、ヴェクサを一瞥すると

「・・・鬨」

そう短く言って手を握ることもなく視線を目の前にある料理に戻した。
器が大きいのか、最初から期待していなかったのか、鬨と名乗った青年の態度を特に気にした様子もなく、ヴェクサは新しい煙草に火をつけた。

2人は青年が最初に居た宿屋の1階にある食堂にいた。
どちらかというと雰囲気は酒屋だが、「食堂」と書いてあったので食堂なのだろう。
そこのカウンターに、二人は並んで座っていた。
鬨は先ほどから煙草をふかしているヴェクサを盗み見る・・・ようなことはせず、正面から堂々とそのアメジスト色の目でヴェクサを見た。
髪は短く肩より上で切られており、濃いめの茶色の髪の毛はこの国では多くみられる髪の色だ。目の色は深めの緑で、鼻筋が通った、さわやかな顔つきをしていた。
年幅は、27,8と言ったところだろうか。と、鬨が考えをまとめたところで、視線に気がついたヴェクサの頬に赤みがさした。

「な、なに見てンだよ・・・」
「・・・いや、なんでもない」

その様子に何の感想も持たないまま、ヴェクサから視線を外し、今度は店内を観察する。騒いでいる中には先ほど鬨が倒した者もいた。

「それで、結局何だったんだ?「あれ」には何の意味がある?」
「まぁそんなに急かすなよ。とりあえず飲め・・ン?・・・・お前、成人してるよな?」

意外とまじめな性格の様だった。

「・・・俺の国でってことなら数年前に済ましてる」
「ンならいい」

そう言ってヴェクサは、赤茶の透明な液体を鬨のコップに注ごうとする。が、

「わるいけど、酒は飲まない」

ヴェクサは、そう言った鬨の白い手に押し止められ、素直に手を引く。
しかし、その顔にはにやにやとした笑みが浮かんでいた。

「なンだ、飲めねぇのか?」
「止められてるんだよ。「お前は絶対に酒を飲むな」ってな」
「へぇ、誰から?」
「・・・・・・誰でもいいだろ」
「なンだ、今の間は」

しかし、それ以上口を開こうとしない鬨に、あきらめたのか、元から興味そこまで無かったのか―――まぁどちらでもいいが―――ヴェクサは店員に次の料理を頼み始めた。
その様子を見て、鬨が咥えていたスプーンを先ほどからになった器に戻して口を開く。

「よくそんなに腹に入るな」
「その言葉、そっくりそのままお前に返すぜ。よくそんなに甘い物食えるな・・・・ン、まぁ、お互いさまって奴だろ」

肩をすくめて、運ばれてきた物を腹に入れながらメニューに目を戻すヴェクサから視線を外して、自分の食べているものを見る。
テーブルの上には色とりどりのケーキが並べられ、これでもかとクリームの乗せられたパフェが置かれ、今、鬨の手の中にはフルーツとクリームたっぷりのクレープがあった。

「・・・・なにがだ?」

しかし、その小さな問いかけはヴェクサに聞こえなかったようで、無視をされた形になる鬨も気にすることなく、沈黙は目の前の料理たちがそれぞれの腹の中に消えるまで続いた。