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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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Episode.1 試練



その様子をあらわすのなら、「平和」だった。
ある宿屋の一軒家、その2階の窓枠に、一人の青年が座ってうたた寝していた。
片膝を立て、お腹の上に腕を置いて、長い睫毛が縁取る瞳を閉じている様子を見れば、それをうたた寝と言わず何と言おうか。
・・・・・日向ぼっこか?
どちらにしろ眠っているような青年は―――実際に眠っているのだが―――階段を上ってくる足音にうっすらと目を開けた。

ばんっ!

音を立てて開いた扉の中、つまり部屋の中には、先ほどまでいた青年の姿はなかった。
侵入者が部屋に入ってくる直前に窓から飛び出したのだ。
もう一度言うが、2階の窓である。
普通の人間ならば軽いけがではすまないであろうその高さを、
しかし青年は「とんっ」という靴底が石畳にぶつかる音のみをたてて着地した。
さらに、宿屋の外で待機していたのであろう数人が一斉に刀の様なもので切り付けてくる。
銃を持った者も数人いるようだった。

(刀が5人、狙撃者が・・・6人か)

計11人を素早く確認した青年は飛んでくる銃弾を避けていく。
人間業とは思えないその動きに、銃撃者の動きがいくばかりか怯んだのを感じた。
続いて、一気に切りつけてくる刀を次々によける。
銃撃者からは確認できないであろう場所で逃げるのをやめ、刀を腰から抜いた。
襲いかかってくる侵入者・・・いや、襲撃者達を次々に鮮やかな刀捌きで地に伏せさせる。
次に、銃を素早くしまい、腰にかけてあったホルスターから変わった形の銃を取り出した。
青年は迷いなく、狙撃者たちが隠れているであろう場所へと向かって駆ける。
再び狙撃者の目に止まった青年に、容赦なく銃撃が降りかかる。が、やはり青年は軽々とそれをよけて見せ、腰から抜いた銃を構え、一人、また一人と狙撃者を倒していった。
そして最後の一人を倒し終わり、それを腰にしまった。
その瞬間、

ガチャッ

後頭部に当たるかたい感覚。

「そこまでだ」
「・・・・・・・」

低い男の声。
その距離は近く、すぐ後ろにいることが分かる。
安全装置が外される音。
長いとも短いともいえる沈黙の後、

「・・・・。俺たちの負けだ、合格」

男は、銃を後頭部の当てられても身動き一つ、動揺のひとかけらも見せなかった青年の背中にそう言って、銃を下した。

「それはどうも」

少しも疲れた様子を見せていない青年は、息を乱した様子も無い声でそう言って振り向いた。
銃を仕舞った男が肩を竦める。

「まったく、殺されるかと思った」

男は、ふぅ、と咥えていた煙草の煙とともに溜息をもらす。

「殺すつもりは無い。そういうルールなんだろ」

心外だという風に言う青年に、「そうだったな」と答えた男は、

「ンじゃ、飯でも食うか。『合格祝い』に」

そういって、歩き出す。

男の後ろの壁には、男が銃を青年の後頭部に突き付けるよりも前に投げられたナイフが刺さり、男の頬には薄く切り傷ができていた。