無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~
「ンな・・・っ!!!」
一瞬にしてヴェクサの顔が蒼くなる。
(駄目だろ・・・これは、駄目だ――!)
「鬨っ!やめろ!それは駄目だ!」
「何言ってんだ!あんなのくらったらあんた死ぬぞ!」
「あほか!だからなんだ!この国の禁忌を破る気か!?」
「あんたは!自分の命と禁忌と、どっちが大事なんだ!」
「決まってる!「この国の禁忌」だ!」
「っ!?ふざけんな!何が禁忌だ!!奴が自分の私利私欲のためだけにつくった決まりなんか、なんで守らなくちゃいけねぇんだ!!」
この言いあいが終わった時にはもう既に瓦礫の雨は降り終わり、あの薄い膜は消えていた。
唯一つ、問題を残して。
「・・・ちょっとまて・・・「奴」?「私利私欲」?お前、世界神(イラ・ノヴェム)を、知ってるのか?」
「・・・・・!!!」
はっとしたように正気に返った鬨だったが、もう遅い。
「どういうことだ、答えろ」
「・・・・お前には、関係ないことだ」
「あるな。大いにある。俺は古文書でいうところの「魔術」を見せられた。お前にだ、鬨」
「・・・・・ほっておいてくれ」
そう言って口を開こうとせず、そっぽを向いてしまった鬨に、しびれを切らしたヴェクサは、立ち上がる。
「行くぞ。まずは目的地に着いてからだ」
「・・・・・・・・」
鬨は黙ったまま、それでもヴェクサの後ろをついてくる。
差程歩いてもいないところの突き当たり――つまり行き止まり――にヴェクサの言う目的地はあった。
「入る前に言っておくが・・・」
「心配しなくても此処で見たこと、聞いたことは誰にもいわねぇよ」
「・・・解ってンならいい」
ヴェクサは扉の横にあったパネルを開けると慣れた様子で文字を打ち込んでいく。
その文字を打ち終わると同時に、思ったよりもはるかにスムーズにスライド式の扉が開いた。
「とりあえず、中に入れ。話はそれからだ」
「・・・わかった」
お互いがギスギスとした空気の中、二人は何で作られたのかもわからない扉の向こうに消えた。
作品名:無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~ 作家名:渡鳥