看護師の不思議な体験談 其の九
8月、外は猛暑。面会に来られる方たちはみんな汗を拭きながら、
「あー、病院はいっつも涼しくていいねえ」
と言い、涼んでいる。
(病院にいても、看護師はみんな汗だくですけどね…)
勤務中つねに動き回っており、挙げ句に、病棟にある看護師の休憩室はクーラーも窓もない。首の回らない扇風機一台のみ。
(か、考えられない…!)
昼休憩はだいたい扇風機の奪い合い。先輩後輩なんて関係ない。
「いい加減、扇風機くらい買いましょうよ。病院が買ってくれないなら、うちらで。」
そう言いながら面倒で、毎年この扇風機を使用している。
「Mさんは今頃、東京楽しんでますかね」
後輩がうちわで扇ぎながら話し始めた。
「あー、占いの店に行くのが、今回の旅行のメインらしいね」
「でも東京のほうが人口多いし、暑そうー。」
「今日の夜勤で来るから、どうだったか話聞いてみようね。」
「Mさん、絶対恋愛運、占ってもらってますよ。結婚年齢とか。」
休憩室一同、はははと大笑い。
「あの、そういえば」
別の後輩が、ご飯で口をモグモグさせながら会話に入ってきた。
「私ぃ、こないだぁ、占い行ってきたんです、モグモグ…」
「食べてからでいいから。汚いなぁ。」
「あの、流行ってるらしいんですけど、『守護霊』見てもらったんです。」
結局後輩はずっと口をモグモグさせて、お弁当を食べながら話した。
どんな時でも、いつも何かしら食べてる後輩を見て、先輩Aが突っ込んできた。
「そんで、何が守護霊として、くっついてんの?あんたのことだから『相撲取り』とかでしょ。」
「違いますぅ!」
(それ、見たまんま…)
そう思ったけど、口に出せなかった。
「で、何だったの?」
「それがぁ、『モチ』でした。」
「何それ!守護霊、食べ物て!」
爆笑。
休憩室は女の園。今日も、くだらない話をしながらご飯をかきこんだ。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の九 作家名:柊 恵二