雨のち快晴
頭を抱えて、流れてくる涙も拭えない。すみません。と送られてきた一言のメールに、ごめん、本当に大丈夫だから。と返信をする。
どうしてだろう。我が侭を言いたくなくて、迷惑をかけたくなくて隠しただけなのに。嫌われたくないと思ってやった行動が、逆に嫌われる原因になってしまった。
「たく…。」
「たくみ」
「ごめん、行かないで。」
出した言葉は空間をさ迷うだけだ。
「嫌わないで。」
「誰が、嫌いって、言いました。」
ぱっと部屋が明るくなり、聞き覚えのある声に顔を上げると、拓が息を荒くし、汗をかいて立っていた。
「拓…?」
何でここに、彼がいるんだ。
「やっぱ、大丈夫じゃないじゃん。もう…。」
「何で?」
「すみません、鍵開いてたんで、勝手に入りました。」
「そうじゃ、なくて。」
「あのね、涼さん。」
拓は屈んで俺の肩を掴み、しっかりと目を見てきた。
「貴方は俺の声で、俺がどんな状態か分かりますよね。俺だって一緒なんです。貴方の顔を見て、声を聞けば、貴方が無理して笑ってるとか分かるんです。」
話している間も彼の目は俺の目を捕らえている。
「俺は知ってます、貴方が雨の夜が嫌いなのを。貴方いつもそういう時、無理して笑って、俺を避ける。」
段々彼の目が悲しさを帯びる。
「無理してるのが分かっても、元気がない理由までは分からないんです。何でなにも話さないで避けるんですか。俺は、そんなに、頼りないんですか。貴方が苦しんでいるのを、見ていることしかできないんですか。」
年下だからですか?と弱々しい声で問いかける。彼の手は震えていた。
「違うん、だ。」
俺はふるふると首を振った。
「違う。拓が悪いんじゃない。」
「じゃあ何で。」
「だって嫌だろう!?」
「人の暗い状態なんて見たくないだろう?重い気持ちを話されるのなんて面倒だろう?過去に捕らわれてる男の、泣き言なんて聞きたくないだろう?…拓に嫌われたく、なかったんだ。離れていかないで欲しかった。」
ごめん。と嗚咽混じりに言う。
「確かに、見たくないです。」
「っ!!ほら、やっぱり、」
「でもそれ以上に、俺は貴方が無理して笑うのを見たくない。一人で泣いているなんて考えたくない。そんなの嫌です。」
「拓?」
「もっと今みたいに何でも話して下さい。隠さないで下さい。一人で泣いて、脅えないで下さい。俺は貴方が好きだと言いました。隣にいたいと。それはこういうことも含めてなんですよ。」
過去のせいで俺を遠ざけないで。そう言って、シーツごと拓は俺を抱き締めた。その温もりに、俺は糸が切れたように泣いた。
「本当に、嫌わない?」
「はい。」
「俺重い、よ。」
「大丈夫、どんとこいです。」
「拓実。」
ありがとう。その言葉と共に唇を重ねる。一人うずくまっていた冷たい暗い部屋が、日だまりのように暖かい明るい部屋になったようだった。気づけば、外の雨音が弱くなっていた。