雨のち快晴
段々音量を下げ、下げきったところで録音を止める。そして一瞬ため息をついて、
「はい、OKです。お疲れさま。」
スタジオの中のパーソナリティーとゲストに声をかけた。スタジオの中と自分の周囲が一気に騒がしくなる。俺は背もたれに寄りかかって、ヘッドホンを外した。
「お疲れさまでーす。」
人懐っこい笑顔を浮かべた、長身の茶髪の男がスタジオから出てきた。俺の担当しているラジオのパーソナリティー、白川拓実だ。柔らかい口調と明るい彼は主に女性のリスナーから人気が高い。
このラジオは初めて俺が責任者になったものだ。彼も初のメインパーソナリティーとしてのラジオ。週に一回のラジオだが、なかなか人気もあり、初めて同士のラジオはもうすぐ二年になる。
「ねぇねぇ、涼さん。今回俺何点でした?」
毎回聞いてくるその様子は、まるで大型犬だ。
「73。」
「ええ!!」
「3回噛んでた。イントネーションも変なところあったし。あとマイク近すぎ。距離ちゃんと見て。」
「うぅ…、相変わらず手厳しい。」
今日の反省点をつっこまれ、しょんぼりとしながらもちゃんとメモをとって聞くところが、彼のいいところだと思う。本人はメモをしないと覚えられないと言っていた。しかしそれだけではなく、彼の性格もあるのだろう。見た目からはそう見えないが几帳面なのだ。
「そういえば、拓のその髪型なんて言うんだっけ?」
横で俺達のやり取りを聞いていたスタッフが声をかけた。
「え?これですか?」
「うん、そのチョンマゲみたいなの。」
「チョンマゲじゃないですよ!!ポンパドールですぅ。似合うっしょ?」
「自分で言っちゃうところがなぁ…。」
「ひどいっ!!」
あはははと周囲のスタッフが笑う。拓と呼ばれる彼はいろんな人から可愛がられていて、よくいじられている。相手が男性でも女性でも、年上でも同い年でも年下でも。人懐っこい性格故に、彼の周りには人が集まる。
「宮さんも思いますよねぇ。」
「ていうか何か、小さい女の子とかがしてそうだよね。ま、拓の精神年齢は低いから似合うんじゃないかな。」
「涼さんまで!!」
ひどいわ!!と声をつくって、タオルをハンカチのようにかじるマネをする彼に、また周囲は笑いに包まれた。
「そうだ、拓。」
「はい?」
「これ。」
小さな袋を彼に放り投げる。
「っとと!!ん?のど飴?」
「今、喉痛くない?」
「え、何で知ってるんですか。」
「声で分かるよ。早く治してね。」
収録中の、ヘッドホンを通して聞こえる声で、大体の体調や気分は把握できる。本人は隠していたようだが、すぐに分かった。
「涼さん…。大好きだー!!」
「はいはい、早く出てねー。片づけの邪魔。」
しっしっと手で追い払うように彼をあしらって、片づけを始めた。彼は嬉しそうに口に飴を入れて、外に出ていく。その様子が何だか微笑ましくて、くすりと笑ってしまった。